図1 地上波の番組をリアルタイムにIPネットワークに流す(イラスト:なかがわ みさこ)
図1 地上波の番組をリアルタイムにIPネットワークに流す(イラスト:なかがわ みさこ)
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図2 IP再送信にはマルチキャスト技術を使う(イラスト:なかがわ みさこ)
図2 IP再送信にはマルチキャスト技術を使う(イラスト:なかがわ みさこ)
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 IP再送信とは,放送のコンテンツをIPネットワークにリアルタイムに流すこと。CATV事業者は,すでに地上波によるテレビ番組をリアルタイムで配信(再送信)しているが,これをIPネットワークに再送信するのがIP再送信である。IP再送信により,現在テレビで流れている番組が,IPネットワーク経由でも見られるようになる。

 IP再送信では,放送局が電波に乗せて配信した番組を通信事業者がいったん受信し,その番組をIPパケットに変換して,自社のIPネットワークに送り出す。こうすることで,そのIPネットワークにつながるユーザーが,ネットワーク経由でテレビ番組を見られるようになる(図1)。

 IP再送信の目的は,現在の地上アナログ放送が完全に終了する2011年までに,地上デジタル放送の難視聴地域をなくすという国の政策を実現するため。

 放送局は現在,地上デジタル放送の電波を全国にくまなく届けるために中継局を整備している。しかし,2011年時点で,全国の数%の地域はカバーできないと見られている。そこで,山間部やビルの谷間など電波の届かない難視聴地域には,すでにあるIPネットワークを使ってテレビを見られるようにしようというアイデアである。

 総務省は,2006年にはIP再送信による通常品質の番組配信を開始し,2008年にはハイビジョン品質での配信を全国で実現したい意向だ。

 IP再送信を実現するにあたって欠かせない技術が「IPマルチキャスト」である。

 IPマルチキャストは,IPネットワークを利用して多くのユーザーにデータを効率よく配信するしくみ。通常のIPネットワークでは,要求のあったユーザー一人ひとりにパケットを送るが,この方法でテレビ番組を配信すると,数万に及ぶユーザーに同じ内容のパケットを別々に送らなければならないため,非効率的だ。

 テレビ番組の配信にIPマルチキャストを使うと,事業者が送り出した1個のパケットをIPネットワーク内のルーターが必要な分だけコピーしてユーザーの下へ転送していく。動画コンテンツのような大量のデータを送っても,ネットワークに負荷をかけずに配信できる。

 事業者が配信したIPパケットのあて先は,チャンネルに対応したアドレス(マルチキャスト・アドレス)になる。ユーザーは,自宅に設置したセットトップ・ボックスと呼ばれる装置を通じて,何チャンネルの番組を見たいかを通信事業者のルーターに知らせる。するとルーターが,要求のあったチャンネル(アドレス)のパケットをユーザー宅に流すというしくみになっている(図2)。