図 Wake on LANの概要
図 Wake on LANの概要
[画像のクリックで拡大表示]

 Wake on LAN(WOL)とは,ネットワーク経由でパソコンやネットワーク機器の電源を投入するしくみである。米AMDが開発した技術で,文字通り,LAN経由でパソコンを起こすことができる。

 会社のネットワークなどで複数のパソコンを管理している管理者にとって,WOLはとても便利な機能だ。社内の全パソコンにソフトをインストールするという作業は,夜間や休日にまとめて行いたい。しかし,パソコンが複数のフロアに散在していたり台数が多かったりすると,電源投入だけでひと仕事になってしまう。そんなとき,WOLが使えれば,パソコンの電源を入れて回るという手間が省ける。

 WOLを利用するには,電源を入れる側の「管理用パソコン」と,電源を入れられる側の「管理対象パソコン」が必要となる(図)。さらに,管理対象パソコンでは,(1)電源,(2)LANアダプタ,(3)マザーボード---の三つがWOLに対応している必要がある。21世紀に入ってから作られたデスクトップ型パソコンであれば,ほぼ間違いなくWOLに対応している。

 WOLでは,管理用パソコンがWOL専用のパケットを送り,そのパケットを管理対象パソコンが検知して,電源が入るしくみになっている。ここで不思議なのが,「管理対象パソコンには電源が入っていないのに,なぜパケットが受け取れるのか」という点だろう。カラクリは単純。WOLに対応したパソコンは,本体の電源が落ちている状態でもLANアダプタにわずかに電力を供給している。LANアダプタはこの電力を使って流れるパケットを監視し,WOLのトリガーとなるパケットを見つけるとマザーボード経由で本体の電源を投入するのである。

 このWOLのトリガーとなるパケットのことを「マジック・パケット」と呼ぶ。いかにも特殊なパケットのようだが,実際の中身はとてもシンプル。パケット(MACフレーム)中のどこかに「FF-FF-FF-FF-FF-FF」という同期用シーケンスとそれに続く「管理対象パソコンのMACアドレスが16個続いたデータ」が含まれている構造になっている。

 パソコンが起動していない状態では,IPアドレスやドメイン名などの識別情報は当然使えない。識別情報として使えるのは,LANアダプタ固有の物理アドレスであるMACアドレスだけだ。つまり,WOLを実現するにはパケットのデータ部分にMACアドレスを埋め込んでこれを識別情報にするしかない。ただし,単純にMACアドレスを一つ埋め込むだけでは,エラーが発生したとき,ほかのパソコンが起動するなど誤起動の可能性が出てくる。そこで,識別情報を16個も入れたマジック・パケットを定義し,誤起動の確率をできるだけ小さくしているのである。