図 光ファイバで近くまで届け,最後の区間だけ電話線を使う(イラスト:なかがわ みさこ)
図 光ファイバで近くまで届け,最後の区間だけ電話線を使う(イラスト:なかがわ みさこ)
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 FTTR(fiber to the remote)とは,ブロードバンド・アクセス・サービス向けの伝送技術である。ADSL(asymmetric digital subscriber line)やFTTH(fiber to the home)と並ぶアクセス回線技術として開発が進んでいる。日本国内の通信標準化団体である情報通信技術委員会(TTC)で技術的な検討が進んでおり,順調に行けば2007年の春にもサービスが始まる。

 FTTRは,電話局からユーザー宅までの区間の途中まで光ファイバを,残りは電話線を使ってデータを伝送する,というアクセス回線技術である。光ファイバを使うFTTHと電話線を使うADSLを組み合わせたイメージで,FTTRは,FTTH,ADSL両者の利点を組み合わせることを狙っている。

 光ファイバを使うFTTHは,電話局からの距離に関係なく,数十Mビット/秒以上の安定した速度でインターネット・アクセスができる。ただし,既存の一戸建て住宅はほとんど光ファイバを引き込んでいない。そのため,FTTHを利用するには,光ファイバの敷設工事が必要となる。ユーザー宅まで光ファイバを敷いてしまうと,1ユーザーあたりの構築コストが高くなってしまう。このため,一戸建ての場合,ADSLに比べてサービス料金が高くなってしまうという問題もある。

 一方ADSLは,既設の電話線を利用できるため,いちいち工事する必要がない。加入電話サービスと相乗りの形であれば,電話線のコストも月当たり100円程度で済む。その分安い料金で提供できるわけです。しかしADSLは,電話局からの距離が長くなると信号が減衰してしまったり,ノイズの影響を受けて信号が乱れてしまったりする。結果として接続速度が数100kビット/秒程度に落ちたり,まったく接続できなくなったりすることもある。

 FTTRでは,電話局からユーザー宅の近くのRT(remote terminal)までを光ファイバで結ぶ(図)。RTで電話局からの光信号を電気信号に変換して,電話回線に乗せてユーザー宅までデータを届ける。今まで電話局に設置していたADSL用のモデムをユーザー宅近くの電柱上に設置すると考えればよい。

 ただし,電話回線部分で使う伝送技術はADSLとは違って,ADSLより高速に通信できるVDSL2(very-high-bit-rate digital subscriber line 2)という技術を使う。VDSL2は2006年2月にITU-TでG933.2として承認された。ADSLが3.75MHz以下の帯域を使うのに対し,VDSL2は1.1M~30MHzという広い周波数帯域を使うことで,最大200Mビット/秒で通信できるようになっている。TTCでFTTRの技術検討を進めるDSL専門委員会スペクトラム管理サブワーキング・グループのサブリーダーを務めるアッカ・ネットワークス相互接続部の岡崎浩治担当部長によると,「RTからの距離が100メートル程度までの範囲であれば,上り下り双方向で100Mビット/秒の通信ができそう」とのことである。

 こうして見ると,FTTRはいいことずくめのように見えるが,技術上および運用上の課題もある。

 技術上の課題は,電話線区間での干渉問題である。VDSL2とADSLは,利用する周波数帯域が1.1M~3.75MHzの範囲で重なる。このままでは,ADSL回線は速度が落ちてしまう危険性がある。電話局から送られてきて減衰したADSLの信号は,途中でRTから送出されるVDSL2の強い信号の影響を受けてしまうからである。また電話局からユーザー宅までの間に複数のRTを設置する場合は,VDSL2同士の相互干渉の影響も考慮する必要もある。

 これらの技術的な課題については,RTから送出する信号の強さを電話局からのADSL信号の減衰に合わせて弱くすることで,解決する見通しが立っている。早ければ2006年内に国内の技術標準は固まる見込みである。運用上の課題は,RTの設置場所,電源供給のやり方,故障の際の切り分けや復旧方法といったルールが決まっていないことである。FTTRは,東西NTT地域会社が電話線や光ファイバを貸し出し,ほかの事業者がRTを設置してサービスを提供することが考えられている。これら複数事業者の間で,運用のルールを決める必要があるわけである。