図 WAFSではWAN上を大きい単位で一気に送ることでファイル・アクセスを高速化する(イラスト:なかがわ みさこ)
図 WAFSではWAN上を大きい単位で一気に送ることでファイル・アクセスを高速化する(イラスト:なかがわ みさこ)
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 WAFS(wide area file services)とは,WANを経由するファイル・アクセスの速度低下を防ぎ,LANと同様の使い勝手を実現する技術である。最近の企業ネットワークで関心を集めている注目の技術である。

 WAFSは,ネットワーク経由のファイル・アクセスの中でも,とくに「CIFS」(common Internet file system)を利用するものを対象にしている。このCIFSは,Windowsが標準で備えるファイル・アクセスのプロトコルで,広く使われているWindowsのファイル共有を主な対象としている。

 CIFSを使ったファイル・アクセスは,遅延の大きな回線を経由すると,回線の帯域にかかわらず,速度が遅くなってしまうという性質がある。CIFSは,パソコンのローカル・ディスクに対するファイル操作を,ほとんどそのままネットワークに持ち込んだプロトコルである。ローカル・ディスクの場合と同様に,一度にやりとりするデータの単位はかなり小さくなっている。例えば,クライアントがサーバーからファイルを読み込む場合,4Kバイトや8K バイトという小さい単位でクライアントが要求を出し,それに応じてサーバーがデータを送信するケースが一般的である。このため,WANのように遅延が大きいネットワークでは,細かい単位でやりとりするCIFSを使うと遅延が積み重なって遅くなってしまう。

 例えば,東京本社にあるファイル・サーバーから,大阪支社のクライアントに10Mバイトのファイルを転送することを考えてみよう。大阪と東京の間では,パケットの往復時間に約20ミリ秒かかる。一度のやりとりで4Kバイトしか送れない場合,速度は1.6Mビット/秒にしかならない。これは遅延によって決まるので,回線の帯域が10Mビット/秒でも,100Mビット/秒でも,これ以上速くなることはない。

 そこで,WAFSでは各拠点に「WAFS装置」と呼ばれるネットワーク機器を設置する。クライアントとファイル・サーバーは互いに直接通信せずに,それぞれローカルのWAFS装置と通信し,WANの間はWAFS装置同士が独自の高速化プロトコルで通信する。つまり,CIFSの弱点であるWANの部分は,別のプロトコルを使って通信することになる。このようなWAFS装置は,米シスコシステムズ,米パケッティア,米ブロケード コミュニケーションズ システムズ,米リバーベッドテクノロジーなどのベンダーが提供している。

 WAFSでは,CIFSの細かいやりとりをWAFS装置で束ねてからWAN回線に送り出す。こうすることで,WAN回線でのやりとりの回数を減らして,全体の遅延時間を小さくする(図)。例えば,先ほどの4Kバイトの読み出し要求をWAFS装置で64Kバイトに束ねると,25.6Mビット/秒まで高速化できる。さらにWAFS装置は,一度読み出したファイルをキャッシュしておくことで高速化を図っている。

 WAFSに関心が集まっている背景には,サーバーを一つの拠点に集めて,集中管理しようという企業の動きがある。ファイル・サーバーを拠点ごとに置く形態では,各拠点ごとに管理者を置いたり,ファイルのバックアップ作業をしなければならなかった。こうした作業には大きなコストがかかるだけでなく,最近問題になっている情報漏えいの観点からも各拠点に分散してファイル・サーバーを置くことには不安がある。しかし,すべてのファイル・サーバーを本社に置いて一括管理し,各拠点のクライアントはWAN経由でアクセスするようなネットワーク構成にすると,CIFSの性質からWAN回線の帯域は十分なのに速度がまったく上がらない。だがWAFSの登場によって,遅延の大きいWANの先にあるファイル・サーバーを実用的に利用できるようになったのである。