BtoC(企業対個人)の電子商取引において、錯誤(思い違い)によって結んでしまった契約の有効性や、電子契約の成立時点について規定した法律。民法の規定に対する特例法に当たる。現実の契約に比べ、電子契約では錯誤を犯しやすいという前提に立って、消費者保護の観点から制定された。

 A氏はあるネット上の店舗で、欲しいブランド商品を見つけました。早速、パソコンで1個を注文。ところが何の間違いか、同じ商品が11個も送られてきてしまいました。驚いたA氏はネット店舗に「自分が欲しかったのは1個だけであって、11個も注文した覚えはない」と説明しましたが、相手は「確かに11個と注文を受けた」と主張。キャンセルするならキャンセル料を支払えと言ってきています。

◆狙い
電子契約の際にも消費者保護

 このような場合、「消費者保護」の観点から言えばA氏の主張が当然受け入れられ、契約は無効にしてもらえると考えるでしょう。ところがネットでの契約の場合、これまでは必ずしもそうではありませんでした。民法95条は消費者の錯誤(思い違い)による契約は原則として無効と定めていますが、錯誤が重大(重過失)であった場合は無効にならない場合があります(95条但し書き)。

 1個だけ買うつもりの商品を口頭で「11個くれ」と注文したなら、それは単なる思い違いではなく「重過失」に相当するでしょうが、電子契約では誤入力も十分あり得ます。

 こうした場合を想定し、BtoCの電子契約に限定して民法上の「特例」を定めたのが「電子契約法」(正式名称は電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律)で、2001年12月25日に施行されました。

 電子契約法によれば、たとえA氏がうっかり「11個」とパソコンに入力していたとしても、錯誤によるため無効と主張すれば企業側は反論できません。ところが、電子契約が「無効」と主張できない場合(適用除外)がやはりあります。例えば、注文入力画面の後に「お客様のご注文内容は以下の通りです。確認のうえ『注文確定』をクリックしてください」といった画面が用意されていて、消費者が『注文確定』をクリックしていれば、適用除外になるとされます。

 現在のネット店舗の多くは、契約内容の確認画面を備えているはずです。画面を良く読まずにクリックしたA氏は、自分の不注意を大いに反省しなければなりません。

◆意義
世界ルールに合わせる

 電子契約法ではもう1つ、電子契約がいつの時点で「成立」と見なすかについても規定しています。簡単に言えば、「契約の承諾」が相手に到達した時点をもって成立とする「到達主義」です。以前は発信時点をもって成立とする「発信主義」が主流でしたが、ネットなどでは瞬時に通知が届くため、国際的にも到達主義が主流になっています。

 電子契約法は、電子契約のルールを国際的な動向を考慮しつつ規定しようというものです。ただBtoC以外の契約については規定していないなど、運用面ではまだ十分ではない面もあると言えます。

秋山知子 takiyama@nikkeibp.co.jp