感情の働きを踏まえて、自分や相手の感情をうまくコントロールする能力。知能指数を指すIQに対比して、「こころの知能指数」とも呼ばれる。

理にはかなっているけれど、言い方が気に入らない」「この場でそんなことを言わなくても」。職場において、上司や同僚に対してこんな反発を覚えた経験は誰しもあるのではないでしょうか。たとえ正論であっても、表現の仕方や、発言するシチュエーションによっては感情的に拒否してしまう。これが慢性化すると、職場の雰囲気が悪くなるだけでなく、業務に支障を来しかねません。

 こんな事態を防ぐのに有効なのがEQです。論理的な知能指数(IQ)に対比して、「こころの知能指数」とも呼ばれるEQは、「自分と相手の感情を知り、感情をコントロールしながら他者に働きかける能力」と定義されています。EQ理論はイェール大学のピーター・サロベイ博士らによって1980年代末に提唱されました。感情を扱う知能を「識別」「調整」「理解」「利用」の4つに大別し、おのおのの使い方を習得したり、弱いエリアを強化することで、人間関係を円滑に運用できるようになります。

◆効果 部下を育て、自分を鼓舞する

 日本では1990年代後半からEQ理論をベースにした研修が企業に導入され始め、イー・キュー・ジャパン(東京・港)などがサービスを提供しています。業務知識やスキルの習得を中心とした日本企業の教育研修において、EQを活用した研修は「こころ」の育成に焦点を当てたものといえます。

 研修は、新入社員や若手社員にも適用されますが、特に効果が大きいとされるのが管理職です。管理職の重要なミッションは部下の育成にありますが、自己流の対人スキルに固執していては部下の成長を妨げてしまう場合もあります。部下の感情の動きを読み取りながら、対応の仕方を工夫するという柔軟な対応ができるようになれば、部下のやる気を醸成し、職場の活性化にもつながります。さらに管理職が自分の感情をコントロールする術を学べば、困難な課題に対しても自分を鼓舞し続け、目標達成へのやる気を維持することが期待できます。

◆事例 風土改革に活用

 トヨタ自動車は、室長の人材開発にイー・キュー・ジャパンの研修を活用しています。現場のリーダーであるグループ長と部長の間に位置する室長には、職場の風土改革がミッションとして課されています。

 グループ長の悩みをくみ取り、部長などとの調整を行って働きやすい職場を形成するうえで、組織のメンバーの感情をきめ細かく読み取る能力が求められます。EQ理論をベースに組織の人間関係を円滑にしていくことは、コミュニケーションコストの削減にもつながるとも考えられており、コスト削減を追求するトヨタらしい姿勢ともいえるでしょう。

参照:日経情報ストラテジー2006年10月号「特集1・稼ぐ管理職を育てる」