企業内のある部署が増員する際、広く社内から人員を募集する制度。社員が応募して合格しても、それまでの上司に異動を阻む権利を与えないのが一般的。

 日本経済新聞が5~6月に実施した調査「働きやすい会社」によると、日本企業の実に79%が社内公募制度を導入しています。この調査は、日経株価指数300銘柄とそれに準ずる有力企業の計632社に依頼して、252社から回答を得たものです。

 社内公募は、自分の部署の社員を増員したい部門長が、社内に広く呼びかけて新規部員を募集する制度です。導入企業の多くは、社員が応募することを直属の上司に知られないように運用しています。採用された時だけ上司に通達し、上司には拒否権も与えないのが一般的です。

◆効果 成果主義を円滑に

 この制度を導入した企業の多くは、特定の部門長が優秀な人材を囲い込んでしまう状態を緩和することを主目的としています。あるいは、社員のモチベーション向上も、導入目的の1つとして掲げています。

 ただし、79%もの企業が導入済みといわれるものの、制度の利用が活発ではない企業が多数含まれます。人事戦略コンサルティング会社の米マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング日本法人は、その原因を「自己責任でキャリアを築くという意識が社員に根付いていないから」と分析します。

 年功序列で自動的に昇給・昇進できた時代が長い日本企業の社員は、異動先を自分の意志で選び人事部や異動先に主張するといった意識が、あまり強くありませんでした。しかし、年功序列の崩壊や成果主義的な評価制度の導入などに伴い、「成果を厳しく問われるなら、本当に自分が意欲的に打ち込める得意分野で仕事をしたい、と願う社員が増加しつつある」(人事戦略コンサルティング会社大手の米ヘイ コンサルティング グループ日本法人)との指摘もあります。今後は制度を積極的に活用する社員は増えるものとみられます。

◆事例 P&Gなどが積極的

 社内公募制度の利用は一般的に、日本企業よりも欧米企業のほうが進んでいます。背景には、「人間は一番したいことをする時に、最も満足して、良い成果を出す」「キャリアプランは自己責任で描く」という2つの考え方があります。それゆえ欧米企業の多くは、日本企業とは違って総合職採用はせずに、細かな職種別に新卒学生を採用します。

 しかし仕事の経験を積むうちに、異なる職種に関心を抱く人もいます。そんな時に社内公募制度を使うのです。一般消費財の世界的な大手企業である米P&Gもそんな1社。同社では、公募に応募したことを上司に知らせる社員が大半を占めます。「社員は自己責任でキャリアを描くのが当たり前という文化があるので、無理に引き留めるどころか、適切な助言をする上司が多いからです」と、P&Gジャパンの人事部門は説明します。

参照:日経情報ストラテジー 2006年10月号「特集2・自立型人材を育てる“流動化”人事革命」