経営指標の徹底した公開、財務関連の教育研修、権限委譲、成功報酬制度などによって従業員の自律的な行動を促し、企業を活性化しようとする経営思想。

 最近、会社員の間で「誰でも分かる決算書」といった類の書籍が人気です。景気の先行きがここまで不透明になると「ウチの会社や取引先は大丈夫なのか」と心配になります。決算書の読み方を一から勉強して現状を確認したいという気持ちが、こうした書籍を購入する動機の1つなのでしょう。

 経営者としては、従業員が会社の業績に関心を持つのは歓迎すべきことです。いまや、従業員が経営者と同じ視点で考え、自ら判断し、積極的に行動するような企業でなければ、厳しい競争に勝ち残れないからです。

◆効果
従業員が自ら動く

 1990年代後半から米国で注目され始めた「オープンブック・マネジメント」とは、自社の従業員に財務諸表をはじめとするあらゆる経営指標を公開しようという経営思想です。良い数字だけでなく悪い数字も共有し、従業員が自ら問題を発見して解決策を考え、それを実践する環境を作り出すのです(ここで言うブックとは、会計帳簿や財務諸表のこと)。

 情報を共有することの大切さは言わずもがなでしょう。そもそも、自社が置かれている状況を知らないでいることは、疑心暗鬼や無責任、無関心を生みます。「業績が悪いのは経営陣の責任だ」「本来ならもっと給与が上がっていいはずだ」——。これでは、企業の業績向上は期待できません。

◆事例
成功のための4原則

 オープンブック・マネジメントを広く紹介したビジネスライター、ジョン・ケース氏は、企業がオープンブック・マネジメントで成功するには4つの条件があると言います。すなわち(1)情報公開、(2)ビジネス・リテラシー、(3)エンパワーメント、(4)成功報酬です。

 単なる情報公開にとどまらず、公開した財務諸表を従業員が理解するために教育・研修を実施し(ビジネス・リテラシーの向上)、現場への権限委譲を進め(エンパワーメント)、業務改革の成果を明確なルールに基づいて従業員に配分する(成功報酬)のが特徴です。

 オープンブック・マネジメントの実践方法は、企業によって様々です。米航空業界の勝ち組として知られるサウスウエスト航空は、経営指標に対する従業員の関心を高めようと、クイズを使っています。例えば、「当社が昨年度に支出した事務用品の総額は?」など、コストに関するクイズに対して従業員に答えてもらうのです。

 回答を書いて提出したカードがそのまま抽選チケットになり、正解者には旅行券が当たる仕組みです。単純ですが、コストに対する注意を喚起したという点で、非常に効果的だったといいます。

花澤 裕二 hanazawa@nikkeibp.co.jp