企業が保有する土地や工場といった固定資産の価値が著しく下がった場合に、損失処理を義務づける制度。日本では2006年3月期からの導入が見込まれている。

 2000~2001年度にかけて、自社で保有する土地の価値を再評価し、含み損を一気に処理する企業が急増しました。三菱地所や三井不動産などの不動産会社、近畿日本鉄道や東武鉄道などの鉄道会社をはじめ、その数は200社を超えたそうです。

 工場や本社などの固定資産を時価で評価し直し、含み損と含み益を相殺できる「土地再評価法」の利用期限が、今年3月末で切れたための“駆け込み”です。土地再評価法には、再評価による損失を損益計算書に計上する必要がないという利点があったのです。

 各社が貴重な含み益を放出してまで土地の簿価を下げるのは、企業経営に巨大なインパクトを与える「減損会計」がすぐ間近に迫っているからです。

◆効果
含み損が一気に顕在化

 減損会計とは、企業が保有する固定資産の価値が簿価から著しく目減りしている場合、一定の条件の下でその差額を損失として計上する制度です。欧州が2005年から導入を決めた国際会計基準や、米国会計基準にはすでに盛り込まれており、日本でも、2006年3月期から全面導入される見通しです。

 日本では今まで、含み損は資産を売却しない限り表面化しませんでしたが、減損会計の導入以降は含み損がそのまま損失になってしまいます。その影響は甚大です。減損会計の対象になるのは工場や本社ビルはもちろん、自社保有の賃貸ビルやゴルフ場、福利厚生施設などの有形固定資産と、借地権や企業買収の際に計上するのれん代などの無形固定資産まで幅広いからです。

 例えば、バブル期に購入した土地に含み損がある場合、減損会計が導入されるとその含み損を一気に処理しなければなりません。稼働率が低下した工場や、百貨店の不採算店舗についても、その資産価値の目減り分を財務諸表に反映させなければならないのです。

 業績そのものは好調なのに、赤字決済を強いられる企業も出てくるでしょう。

◆事例
決算に悪影響も

 減損会計の影響が特に大きいと考えられるのが、バブル期に多くの土地を取得したゼネコンや不動産、流通、生命保険会社などです。実際、今年3月、準大手ゼネコンの佐藤工業が会社更生法の適用を申請しましたが、その背景には、減損会計の導入で含み損が表面化すれば自助努力による再建は不可能になるという判断があったそうです。

 一方、イトーヨーカ堂や伊藤忠商事など、米国会計基準を採用している企業はすでに減損処理を実施しています。

花澤 裕二 hanazawa@nikkeibp.co.jp