実際に起こっている経営上の課題を対象に、従業員のグループが解決策を検討する教育・研修手法。業務改革と人材育成の手法という側面も持つ。

 仕事で問題が生じた際、同僚や上司に相談しても解決できなかったのに、部署の異なる人からの助言が役立ったという経験をお持ちの方も多いことでしょう。業務上の立場が違う人と議論すると、部内の会議では出てこないようなアイデアが生まれるものです。こうした効果を組織的に生み出そうというのが、「アクションラーニング」です。

 アクションラーニングは、従業員の小グループ、それも通常は部署を横断した人たちのチームで、実際に起こっている経営上の課題に対する解決策を検討するという形態を取ります。研修という形式で運営することが一般的ですが、業務改革を推進する手法でもあり、また改革の推進役になる人材を育成する手法という側面も持ちます。

◆効果
チェンジリーダーを育成

 アクションラーニングと一般の研修の違いは、テーマ設定にあります。新人や中堅社員などを対象にする旧来の研修制度では、時流に左右されない普遍的なテーマになるのが一般的です。すでに解答が用意されており、これを講師が教えるという形になります。

 これに対して、アクションラーニングで掲げるテーマには「正解」がありません。なにしろ、自社が今まさに解決に迫られている課題をテーマにするのですから、誰も答えを持っていないのです。

 一般の研修との違いがもう1つあります。それは、アクションラーニングにおける検討結果が、経営層に提言される点です。これを受けた経営層は、業務改革の案件として経営会議などで検討するのが普通です。すなわち、部門横断での議論のなかから、実効性のある業務改革案が出来上がるのです。さらに、この一連のプロセスを経ることで、メンバーに経営参画の意識が芽生えるという利点もあります。自ら改革を推進するチェンジリーダーを育成することが期待できるのです。

◆事例
幹部候補の研修に導入

 大日本印刷は、アクションラーニングに相当する「新任幹部社員研修フォローアップ・プログラム」を2000年から開始しました。研修の対象は、入社10年目くらいに上級職と呼ぶ職級に昇進した幹部候補社員。地域や職種といった立場が異なる社員が、「新規事業」や「新ビジネスモデル」「新サービスモデル」といった経営課題をテーマに議論するものです。

 1つのテーマで5~6人ずつのグループを作るのですが、意図的に拠点や職種が異なる社員を混在させることが特徴です。イントラネットや対面形式で6カ月間、議論を続けた後に、結論を社長に提言する場を設けています。

吉川 和宏 kyoshika@nikkeibp.co.jp