捨てるべき習慣や業務ルールを排除し、新たな仕組みを作り上げる改革の推進役。ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)の推進者と言い換えることもできる。

 マネジメントの本質の1つは「捨てる」ことにある——。経営者の間に多くのファンを持つ経営学者、ピーター・F・ドラッカー氏は数十年も前から、こう説いてきたといわれます。

 ここで捨てる対象とは、経営環境にマッチしなくなった業務ルールや習慣を指します。

 例えば、取引先のリスクを軽視してでも取引先をどんどん広げたほうが、事業成長上、有利な時代がありました。高度成長期には、取引先の大半は問題もなく成長したからです。しかし、バブル崩壊後は、リスクを軽視し、与信をおろそかにして取引先を絞り込まなかった企業は経営危機に瀕ひんしました。

 もちろんトップダウンで決められた業務ルールに対して、やみくもに現場社員がいちいち異を唱えていては、日常の業務が成り立たなくなります。それでも、社内常識にとらわれずに、捨てるべきものは何かを的確に見抜き、いざという時には変革に周囲を巻き込める人材が企業には一定数必要なのです。この人材をドラッカー氏は「チェンジリーダー」と呼びました。

◆効果
変革への巻き込み力は不可欠

 実はドラッカー氏は、チェンジリーダー像を具体的に定義したことはありません。リーダー像を一意に型にはめるべきではないと考えているようです。

 しかし、企業変革を成し遂げるには、周囲を巻き込む力が不可欠です。そうして考えると、的確に変革へのヒントや障害を探し当てる「情報収集力」や「情報分析力」、変革への道筋を力強く語れる「説得力」、変革への本気度を背中で示せる「行動力」、変革への障害に直面した時の「決断力」などは欠かせないものと考えられます。スキルではありませんが、情熱の強さも必要条件に数えられるでしょう。

 ビジネス・プロセス・リエンジニアリングの推進者にもこうした資質が求められていることは言うまでもありません。

◆事例
しがらみ脱却に成功

 6期連続の最終赤字が続いた三協アルミニウム工業(富山県高岡市)で、2000年8月に生え抜きで社長に就き、2年目から黒字転換に成功した川村人志社長は、そんなチェンジリーダーの1人です。

 川村社長は、まず社員とのコミュニケーションに精力を傾け、変革を阻む障害と解決策の情報収集に努めました。そして営業や購買、物流といった業務改革の目標を明確にした後、プロジェクトチーム編成や、物流業者の再選定、受注ルールの変革など、しがらみを捨て去る施策を次々と打ち出しました。

 2003年5月期には、対売上高経常利益率を4.2%に上げるまでに企業を変えることに成功しました。

井上健太郎 kinoue@nikkeibp.co.jp