企業の研修や学校の授業といった教育の効果を高めるための方法論。「ID(Instructional Designの略)」と呼ぶことが多い。米国では1980年代から企業研修で利用されており、日本でもeラーニングの普及ととも注目されつつある。

 IDは教育工学における理論で、教育担当者がどのような手順を踏んで研修や授業を実施すべきかを体系的に規定している。IDを使うと、教育の目的が明確化できるとともに、目的の達成に向けて適切に教育を実践できるようになるのが利点だ。

 IDにのっとって教育を進める場合、通常は(1)分析(Analysis)、(2)設計(Design)、(3)開発(Development)、(4)実施(Implementation)、(5)評価(Evaluation)という流れをとる。(1)から(5)をまとめて「ADDIEモデル」と呼ぶ。

 IDを企業研修に適用する場合、まず(1)の「分析」では、企業における研修ニーズを把握し、そのニーズを基に研修の目標や評価基準を決定する。例えば「Javaで基幹システムを再構築したい」というニーズがある場合なら、研修の目標は「Java技術者を10人増やす」、評価基準は「サーバー向けJava仕様であるJ2EEを使ってアプリケーションを開発できる」などと決める。

 次に(2)の設計に移る。ここで目標の達成に必要な研修の期間や対象、方法などを検討する。上記の例なら、「Javaの開発経験者向けには、短期間で最新技術が身につく実習形式の集合研修を提供する」、「Java初心者に対しては、eラーニングでJavaの基礎を学習してもらい、その後に集合研修を提供する」といったことを決める。

 ここまでできたら、(3)の「開発」に入る。この段階では、自社内で教材を作成する、eラーニングのシステムを導入する、などのように研修を実行するのに必要な環境を整える。その後、(4)の「実施」で実際に研修を行う。研修が終了したら、受講者のスキルが先に決めた評価基準に到達しているかを測定する。目標が達成できていない場合は、研修を見直す。これが(5)の「評価」に当たる。ADDIEモデルでは評価結果を分析にフィードバックして、教育内容を常に改善していく。

 米国企業がIDの採用に積極的なのは、「研修の結果が、どの程度企業の業績に貢献したか(研修のROI=費用対効果)」をできる限り数値化しようとする風潮が強いことが背景にある。これに対し、日本の企業は「新入社員研修」や「管理職研修」といった具合に年齢や職種に応じて研修を実施することが多く、研修に対してROIをあまり求めない。IDが日本でなかなか普及しないのはこのためである。日本では、IDをeラーニングを導入する際の方法論ととらえるケースがいまだに多い。

 IDによる教育を適切に進めるには、IDを実行できる教育担当者の育成が欠かせない。日本ではこのような担当者が少ないことも、IDの普及を妨げる一因である。

(島田)