社員が仕事の目標を自ら設定し、自分の責任において業務を遂行していく経営管理手法。上司と部下の合意のうえで、組織の戦略に合致した目標を設定する。

 成果主義を取り入れる企業が増えつつあるなかで、失敗に終わり撤回するというケースも出てきています。高い評価を得ようとするあまり目標を低く設定する社員が続出して企業全体の収益が伸びなかった、あるいは管理者が厳しいノルマを設定して社員のやる気が低下するというのが、成果主義が失敗する典型例です。

 こうした成果主義の失敗は、目標管理制度の一種である「MBO」に対する誤解と似た構図にあります。「目標による管理」「目標管理」などと訳されるMBOは、もともとピーター・F・ドラッカー氏が約50年前に提唱した概念です。社員が自ら設定した目標を自律的に行動して達成することを意味した概念です。

 MBOは、目標を達成することに主眼があるのではなく、社員が自律的に行動することにこそ大きな意義があります。しかし、MBOを目標そのものを管理する手法だと誤解し、厳しいノルマを設定する大義名分に使っている企業が後を絶ちません。

◆効果
戦略と現場を結びつける

 MBOにおける社員ごとの目標は、管理者から一方的に与えられるものではなく、管理者と相談のうえで自ら立案します。この際、管理者として重要な点は、社員一人ひとりに自分の役割を認識してもらうことです。すなわち、社員が目標を設定する際に、組織の戦略に沿うように方向付けすることが管理者の役割なのです。組織の各階層において、こうした役割を管理者が担うことによって、経営戦略と現場の行動がひも付けられることになります。

 目標の達成度を評価するのも管理者の役割です。MBOを導入する場合、通常は達成度を給与や賞与に反映するので、評価が公正でないと現場のやる気を削ぐことになります。裏を返せば、客観的に評価できる目標を立案できなければ、公正な評価には結びつきません。

◆事例
BSCで活用

 MBOの備える目標設定・評価という機能は、ほかの経営手法にも有効です。実際、バランス・スコアカード(BSC)などでMBOを取り入れる企業もあります。

 例えば、BSCを導入したリコーは、部門の目標を立案・評価する部分にMBOを活用しています。

 顧客維持率といった部門の評価指標を決める際には、目標が高すぎたり、低くなりすぎないように独自の工夫を盛り込んでいます。目標値を設定した背景や、達成のための具体的な施策を記述した「目標設定背景資料」を作成。これによって、現場と管理者の双方が納得できる目標が設定できるのです。

(吉川 和宏)