顧客との関係を維持・強化し、優良顧客に育てる経営手法。顧客一人ひとりの収益性を最大化するのが狙いである。個人情報の漏えい対策など注意が必要になる。

 「あら、いらっしゃい。お腹のすき具合はどう?」「えっと、まだそこそこ食べられるかな」「じゃあ、すぐピザを用意するわね。もちろん、苦手な魚介類は抜いておきますよ」——。

 なじみの店では、店主が顧客のニーズを素早く察知してサービスを提供してくれます。顧客はあれこれ説明しなくても対応に満足がいくため常連になり、店主が薦めるのであればちょっと高価なメニューであってもためらうことなく注文するでしょう。

 このように顧客と親密な関係を築き、大きな利益をもたらしてくれる優良顧客へと育成していく手法が「CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)」です。

◆効果
固定客作りを推進

 既存顧客への対応を手厚くし、自社へのロイヤルティー(忠誠度)を高めるのがCRMの考え方です。ロイヤルティーが上がれば購買頻度の向上を期待できます。接触回数が増えると、顧客のし好や価値観、ライフスタイルを把握しやすくなります。こうしてつかんだ顧客特性が、「ついで買い」を促したり、より高価な商品を薦めたりするのに役立ちます。

 冒頭で紹介したように店主が頭の中だけで顧客一人ひとりの好みを把握できる店は別にして、顧客数が数千人以上に及ぶ企業は、顧客情報を組織的に管理・活用する体制作りが欠かせません。データベースに蓄積した顧客の性別や年齢、居住地、購買履歴といった情報を分析して、顧客のし好や価値観を導き出すわけです。

◆事例
余計な個人情報は持たない

 ミレニアムリテイリング(東京・千代田)は、約700万人いるポイントカード会員の購買履歴を分析し、販促企画や品ぞろえの改善に生かしています。店内のどの売り場とどの売り場でよく購買するかという「買い回り」の傾向を基にDM(ダイレクトメール)を打ったところ、反応率(DMを送付した会員のうち、実際に発送元の売り場で買い物した会員の比率)が従来の2倍になる成果を上げました。

 今年4月から携帯電話を活用した会員制度を導入したのがワタミです。会員登録した顧客の携帯電話に2次元バーコードを配信し、店舗でバーコードを読み取って顧客を識別する仕組みです。5回来店するたびに飲料やデザートと交換できる金券を提供するといった特典を設けて来店頻度の向上を狙います。

 同社は、社員による顧客情報の漏えいリスクを回避するために、顧客管理システムの運用を外部に委託しました。個人情報保護法の施行に伴って、顧客情報の管理に神経をとがらせる企業が増えています。

(相馬 隆宏)