コーチ役の社員が、対話のなかから受講者の可能性や潜在能力を引き出す手法。スポーツの選手育成手法を、企業の人材育成に応用したものだ。

 この2~3年で、すっかり経営用語として定着した感がある「コーチング」。もともと、スポーツの世界での指導方法として発達し、1980年代後半に米国で経営手法として広まりました。米ゼネラル・エレクトリック(GE)社や米フォード・モーター社などの大企業がマネジャーの職務要件として取り上げたことで知られています。

 コーチと受講者が定期的に対話するなかで、目標の優先順位を決めたり、実現に必要な条件や解決策を受講者に考えさせます。受講者は、コーチからの様々な質問について考える過程で状況を整理して課題を把握するようになります。コーチングにおいては対話が何より重要です。

 同じくマン・ツー・マンで人材を育成する手法として「メンタリング」があります。こちらは知識や経験の豊富な社員が、自らの体験を語ることで受講者にヒントを与えます。業務に必要な能力を引き出すことが目的であるコーチングとは異なり、人間関係の悩みなど心理面や社会的な面もカバーするため、新入社員研修などに採用する企業が多いようです。

◆効果
優先順位を明確にさせる

 コーチ役の社員が受講者に課題を整理させたり、優先順位をつけさせることは業務の効率化や経営のスピードアップにつながります。また、受講者は対話を通じて、「なぜその目標を実現しなければいけないのか」「実現には何が必要なのか」を考えます。これによって新しい視点を持つことができ、自分ではとても思いつかないアイデアや解決策を見つけ出せます。

 日本でコーチングのノウハウを習得する研修を受けるのは大企業の幹部か中小企業のトップがほとんどですが、米国では大企業のトップが受講するケースが一般的になっているそうです。

◆事例
女性社員研修に導入

 コーチングが日本に導入されたのは90年代後半といわれています。最近では様々な企業での採用事例が見られます。こうした企業では社員のマネジメント能力やコミュニケーション能力の向上を目的としています。個々の社員の能力を向上させる以外にも組織全体の士気高揚の効果があるといわれています。

 東芝では今年3月から女性社員を幹部に育成するための講座を開設しています。財務などの専門知識の習得に加えて、コーチングのノウハウも重要な修得科目となるそうです。

 地方の商工会議所でも地元企業トップへのノウハウ提供に動いています。コーチングの急速な普及は、多くの企業が社員の「やる気の創出」に苦労している証拠であるといえるでしょう。

(上木 貴博)