内部告発者が、解雇や降格、減給といった不利益な扱いを受けないように保護する法律。2006年4月から施行する。企業不祥事撲滅の一助として期待がかかる。

 CSR(企業の社会的責任)を推進する企業にとって、注目すべき法律が2006年4月から施行されます。「公益通報者保護法」がそれです。

 企業や行政機関の不正行為を通報した、いわゆる内部告発者を保護するための法律です。不正を犯した企業や行政機関が、通報した従業員に対して、解雇や降格、減給といった報復措置を取るのを禁じています。保護の対象となるのは、当該企業の正社員のほか、パートやアルバイト、派遣社員、取引先の従業員です。公務員も含まれます。

◆効果
法で不正を防ぐ

 ここ数年、日本放送協会(NHK)やカネボウ、三井物産といった大手も含めた企業の不祥事が相次いでいます。その要因の1つとして内部通報制度の不備が挙げられます。

 告発したら不利益を被るのではないかという懸念が残されたままでは、たとえ内部通報を受け付ける専用窓口を設けてもうまく機能しないでしょう。解雇されるのを恐れて、不正を見つけても目をつぶってしまうばかりか、自らも加担しかねません。まさに仏作って魂入れずです。

 内部告発者の身の安全を法律で確保すれば、従業員は安心して通報できるというわけです。不正を隠ぺいできない環境を整備することで抑止力が働きます。

 三菱自動車の欠陥隠しや雪印食品の食肉偽装事件など、内部告発をきっかけに不祥事が発覚したケースは少なくありません。そのため、不祥事防止に向けて公益通報者保護法の施行には期待が寄せられています。一方、その効力は限定的になるのではないかと見る向きもあります。

◆課題
保護の対象を厳密に定義

 というのも、新法は保護の対象となる要件を厳密に定めているからです。

 例えば、通報できる不正行為は、刑法や食品衛生法、証券取引法など決められた法令に違反、または違反しそうな場合に限られます。報道機関や消費者団体といった、企業や行政機関以外の外部組織へ通報する場合も、「内部通報では証拠隠滅の恐れがあること」「書面による内部通報後20日以内に調査を行う旨の通知がないこと」「人の生命・身体への危害が発生する急迫した危険があること」のいずれかを満たしている必要があります。

 さらには、通報者は他人の正当な利益などを害さないように努力しなければならないなど、通報者や企業、行政機関にも義務を課しています。

 公益通報者保護法の対象とならない通報は、労働基準法など従来の法体系に基づいて保護するかどうかを判断することになります。