米アップルが販売拠点として重視しているアップルストア。そこでの店員の接客品質を高めるために、加フォーシーズンズホテルの接客サービスを参考にしたとされている。

 IT企業が参考にするホテルの現場では、ITは活用しているのだろうか。フォーシーズンズグループが日本に展開するフォーシーズンズホテル丸の内東京では、接客のプロであるホテルスタッフを支援するためにITが使われている。

 世界最大級の旅行口コミサイトであるトリップアドバイザーで、日本のトップホテルの1つに挙げられる同社。重視しているITの1つが予約管理システムだ。顧客から電話などで宿泊などの受け付けをするスタッフが、予約の目的や経緯などを把握して、予約管理システムに登録。その情報をホテル全体で共有し、スタッフがそれを踏まえて顧客のもてなしに活用している。

共有情報を基に一貫サービスを提供

写真1●受付スタッフは家族連れの子供にプレゼント
写真1●受付スタッフは家族連れの子供にプレゼント
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写真2●客室内の手書きメッセージ
写真2●客室内の手書きメッセージ
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写真3●顧客名が入ったお品書き
写真3●顧客名が入ったお品書き
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 具体的には、予約管理システム上のデータを基に、その日の来客リストを毎日、スタッフ全員に配布。A4サイズ1枚の紙のリストには、その日にチェックインする顧客、滞在中の顧客、チェックアウトする顧客それぞれがリストアップされている。

 リストには「子供のリサの誕生日を記念して京都から東京へと旅行している」といった、予約担当スタッフが受付時に把握した顧客情報も含まれている。こういった予約する顧客の背景情報を的確につかむために、予約電話の応対などの時には、顧客との会話を重視しているという。

 ホテルの現場スタッフは「このリストを踏まえて、それぞれの持ち場で、アットホームな雰囲気でおもてなしをしている」とフォーシーズンズホテル丸の内 東京の岸琢也 総支配人代理は明かす。

 子供連れで旅行中の顧客が到着時、受付スタッフは、あらかじめ子供の名前を添えた絵本などのプレゼントをあらかじめ準備。顧客の出迎え時には、顧客に歓迎の意を伝えつつ、顧客が子供を紹介する前に、「リサちゃん、ようこそ」と先回りして出迎え、プレゼントを渡す(写真1)。

 客室担当スタッフは「京都でのご滞在はいかがでしたか。東京でもお楽しみください」といった、顧客の旅程を踏まえた手書きメッセージを用意(写真2)。レストランでのディナーでは、顧客名を印刷したお品書きが整えられる(写真3)。このように受付、客室内、レストランと、ホテル内の異なる場所でも、一貫したおもてなしを実現させている。

 特定の部署だけによる「点」での接客品質の向上を、複数部署にわたる「線や面」でのおもてなしに変える。そうすることで、顧客がサービスを受けている間に感じる価値、すなわちカスタマー・エクスペリエンスは高められる。フォーシーズンズ丸の内東京では、その実現のために、ITを活用している好例と言える。