化学メーカーのカネカは2013年1月、本社ビル移転を機にワークスタイル改革プロジェクトを完遂した。軸となるのはコミュニケーション基盤の刷新。業務メールのクラウド化や統合コミュニケーションツールの導入、既存のPBX(構内交換機)の廃止などにより、社員4400人がいつ、どこででも業務を継続できる環境の実現と、通信コストの削減を図った。

 「千載一遇のチャンスだ」。カネカ情報システム部で運用管理チームのリーダーを務める矢吹哲朗氏は、大阪本社を移転する方針を2010年に聞いたときにこう思った。コミュニケーション基盤を刷新し、ワークスタイル改革を実現する絶好の機会と考えたからだ。

事業のグローバル化に対応

 カネカのコミュニケーション基盤は老朽化が目立っていた。メールシステムとして、米IBMの「Notes」をバージョンアップせず15年以上使い続けていた。一人当たりの利用可能なメール容量は100Mバイトと小さく、スマートフォンからのアクセスもできない。当時は研究開発や製造設備向けの投資を優先しており、IT投資は後回しにされがちだった。

 社内の通信コストの膨張も問題だった。携帯電話の普及により、海外の生産拠点では出張した社員や現地社員が携帯電話をトランシーバーのように使う。このため、「驚くほどの額の国際電話料金がかかっていた」(矢吹氏)。

 同社の海外事業は総売上高の3割超を占めており、今後拡大していく可能性が高い。コミュニケーション基盤はもう限界が来ていた。通信コストを押さえつつ、メールや音声通話、ビデオ会議を駆使して、大阪・東京の両本社や国内外の拠点で働く社員がいつでもどこでも勤務できる仕組みを整備する必要があった。

 矢吹氏ら情報システム部がこうした問題意識を持っていたところに、大阪本社移転の話が持ち上がった。本社が入居していたビルを老朽化に伴って建て替えるため、移転する必要に迫られたのだ。

 「オフィス移転の機会をどう生かすのかを考えてほしい」。カネカの経営陣は情報システム部にこう指示した。

 これに応えて情報システム部が提案したのが、ITを活用したワークスタイル改革である。コンセプトは「シームレスオフィス」。社員が国内外のどの拠点にいようが、社員同士でコミュニケーションしつつ、業務効率を高められる基盤の実現を狙った(図1)。

図1●カネカのワークスタイル改革プロジェクトの概要
統合コミュニケーションツール「Lync」の導入で社員同士のコラボレーションを促す。
図1●カネカのワークスタイル改革プロジェクトの概要<br>統合コミュニケーションツール「Lync」の導入で社員同士のコラボレーションを促す。
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