IT推進室企画推進部の小林広典情報活用推進チームリーダー(左)と開発推進部基盤企画チームの真下紘樹氏
IT推進室企画推進部の小林広典情報活用推進チームリーダー(左)と開発推進部基盤企画チームの真下紘樹氏
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人事部いきいき推進室の槙田あずみ室長(右)と柿沼郁子コーディネーター
人事部いきいき推進室の槙田あずみ室長(右)と柿沼郁子コーディネーター
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 全日本空輸(全日空)は2011年9月から在宅勤務制度を導入した。2011年度内に50人の利用を目標にし、すでに利用者と利用予定者があわせて43人に上る。在宅勤務日は週1回とし、集中して業務に当たる日を設けることで生産性の向上を図る。在宅勤務する社員にはシンクライアント(個人端末が最低限の機能しかもたず、会社側でファイルなどを監視するシステム)の端末を貸与、自宅から会社のパソコンにアクセスして業務システムやオフィスソフトなどを利用できるリモートデスクトップ環境を提供している。

 同社では2007年から在宅勤務制度の検討を始め、IT推進室と人事部が共同でITインフラの整備やテスト利用を進めてきた。第1の目的は生産性の向上にある。通勤や電話応対、他の社員との会話に費やす時間を無くして、集中して自分の仕事に取り組める日を作る。さらに「週1回の在宅勤務を前提に、週次や月次で仕事のスケジュールを組む習慣を定着させることで、効率的な仕事の組み立てを促進する」とIT推進室企画推進部の小林広典情報活用推進チームリーダーは話す。

 2011年3月11日の東日本大震災後は、BCP(業務継続計画)のうえでも、社外で仕事ができる環境を整えることが急務となった。そこで2011年6月にリモートデスクトップ環境を整備した。ただし、各社員の自宅にあるパソコンは処理能力などにばらつきがあり、在宅勤務用の設定作業が煩雑になる恐れがあった。そこで会社が在宅勤務専用のシンクライアント端末を準備し、リモートデスクトップが利用できる環境を整備したうえで提供する。自宅のシンクライアントを通じて会社のパソコンを操作して仕事を進められるが、作成資料などは会社のパソコンで保存し、自宅のシンクライアントでは保存、印刷などができない。こうして情報漏えいを防ぐ。在宅勤務のハードルを下げたうえで、2011年9月から本格運用を始めた。

 在宅勤務の対象者は、運行管理や人材配置などの計画策定、マニュアル作成など仕事の成果が分かりやすく、かつ1人で集中して仕事に取り組む時間が必要とされる業務に携わる社員とする。対象者の選定は部門の上長の判断に任せており、現時点では営業推進本部や客室本部、カスタマーサポートなどの8部署で、上記の条件を満たす一部の社員が在宅勤務を実施している。人事部いきいき推進室の槙田あずみ室長は「導入の意思決定は部署に任せているため、人事部とIT推進室が本社や羽田空港などでシンクライアントのデモンストレーションを行い、会社とほぼ同じ環境で業務ができることを社内で納得してもらっている」と話す。

 いきいき推進室の柿沼郁子コーディネーターは「電話応対などで仕事が中断されないため、利用者からは『会社では夕方までかかる仕事を、午後2~3時までに終わらせられる』などの声が多く寄せられている」と話す。ただし緊急の連絡手段として、シンクライアントにはIP電話の機能を装備している。在宅勤務者がイントラネットのスケジュール共有ソフトに、在宅勤務中であることとIP電話の番号を登録しておくことで、業務に支障を来たさないよう工夫している部署もあるという。加えてウェブ会議システムも導入し、社内で開く会議に参加できる仕組みも整え、「場所の制限無くチームのコミュニケーションが図れるよう配慮している」とIT推進室開発推進部基盤企画チームの真下紘樹氏は話す。

 2012年度には在宅勤務の適用者を100人に拡大する予定。シンクライアントの導入などにコストがかかることから、拡大は慎重に進める方針だ。ただし「会社のパソコンのシンクライアントへの置き換えや、自宅のパソコンで安全にストレスなく会社のシステムを利用できるBYOD(ブリング・ユア・オウン・デバイス)の環境整備が進めば、在宅勤務を大幅に拡大できる可能で意が高まる」とIT推進室の小林リーダーはみている。