リンナイの福本啓史eビジネス推進室室長(写真右)と慶應義塾大学大学院経営管理研究科ビジネス・スクールの井上哲浩教授(写真左)
リンナイの福本啓史eビジネス推進室室長(写真右)と慶應義塾大学大学院経営管理研究科ビジネス・スクールの井上哲浩教授(写真左)
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 ガス器具大手のリンナイは、同じ事業者が運営するCRM(顧客関係管理)関連のクラウドサービスを利用している企業と、顧客のインターネット上での行動情報を相互利用する。自社だけでなく他社が持つ行動情報も使って、同社のメール配信サービスを強化する実験を2011年1月13日に開始した。

 リンナイは「購入頻度」や「製品評価レビューの記述内容」といったネット上の行動が似た顧客データを保有する2社から、行動情報を取得。代わりにリンナイも、同社が運営する交換部品などの販売サイト「R.STYLE(リンナイ・スタイル)」の会員の行動情報をこの2社に開放する。顧客の行動情報のやり取りには、シナジーマーケティング(大阪市)が提供するクラウドサービスを利用する。リンナイおよび行動情報を共有する2社はいずれも、シナジーマーケティングのクライアントである。

 取得した行動情報とリンナイが持つ会員の行動情報を合わせて、あるセグメントの顧客層がどんなキーワードに反応しやすいかなどを分析する。この分析作業は、慶應義塾大学大学院経営管理研究科ビジネス・スクールの井上哲浩教授の協力を得て実施する。

 過去にはリンナイ・スタイルの会員だけを対象にして、同様の分析をしたことがあった。リンナイは分析結果に基づき、ある製品の交換部品などの購入金額が高い「優良顧客候補層」に向けて、部品紹介といったHTML形式のメールを配信した。すると当該メールの開封率は6割近くに達した。顧客層を絞らずにメールを配信した場合の開封率は10%台であり、効果が上がったものでも20%程度だったという。つまり、3倍以上高い開封率になった計算になる。

 今回はさらに分析精度を高めるため、他社の行動情報まで活用することにした。リンナイの福本啓史eビジネス推進室室長は「自社で保有するデータよりも母数が増えるので分析精度が向上する」と期待を寄せる。分析結果は、特定の商品群と関係性が高い顧客セグメントにメール配信するといった施策に生かしていく。例えばガステーブルのお手入れ製品の情報を配信する際には、「お手入れ製品」というキーワードに反応しやすい会員に絞ってメール配信することが考えられる。

 福本室長は「いかに有用なお手入れ製品の情報を届けても、関心が無い会員にとってはむしろ迷惑になるだけだ」と語る。会員の関心に近いメールだけをピンポイントで配信し、会員との関係強化を図る。

 今回の実験は2011年3月末まで実施する予定。有効性が認められれば、リンナイは行動情報を相互利用する企業をさらに増やしたい考えを持っている。なお、リンナイが他社と相互利用する情報はネット上の行動に関するものに限っており、そこには氏名などの個人情報は含まれていない。