ポイントはここ!

●データセンターへの接続性維持を重視し、衛星通信を採用

●アプリケーションの仮想化により、通信遅延の課題に対処

 食品流通で国内最大手の国分は2010年10月、大規模な自然災害が発生しても物流システムを止めないための災害対策ネットワークを完成させた。

 同社の物流システムは、食品関連商材の入出荷管理を担う、同社の基幹部分。このシステムを設置したデータセンターに通じる通信回線が切れても、衛星回線で経路を確保し、全国各地の物流センターの業務を止めないという事業継続計画(BCP)実現を目指した。

 「顧客から預かった品物を決められた通りに納入先へ届ける。これは当社にとって信頼の基盤。災害時に食品流通を維持することは、社会的責任でもあると認識している」(青柳光洋・情報システム部システム企画・運用チーム・チームリーダー)。この社会的責任という意識から、情報システム部は自発的にBCPを推進。既存ネットワークのコストを大幅に削って費用を捻り出し、そのうえでBCPを実現するという、学べるところの多い事例である。

物流の維持は「問屋の命脈」

 約200ある物流センターとデータセンターの間は、2系統の通信回線で結ばれている。ソフトバンクテレコムのULTINA IP-VPNと、同Managed Etherを併用した冗長構成である。アクセス回線も2系統をそれぞれ異なる局舎に収容しており、「ネットワーク障害や接続機器のダウンなど、一般的な障害対策としてはほぼ十分」(青柳チームリーダー)な構成だ(図1)。

図1●首都圏直下型の広域災害に備えた国分の物流ネットワーク<br>大阪の災害センターには公衆網との接続が必要な受発注システム、トラフィックが多いメールとDNSをバックアップ。在庫・出荷管理などの物流システムは横浜に集中させた。広域災害時にメインセンターへの回線が不通になった場合、各拠点から大阪センター経由で広島の衛星通信システム経由で横浜のデータセンターにつなぐ。図中、地が水色になっている部分は2重化したシステム。
図1●首都圏直下型の広域災害に備えた国分の物流ネットワーク
大阪の災害センターには公衆網との接続が必要な受発注システム、トラフィックが多いメールとDNSをバックアップ。在庫・出荷管理などの物流システムは横浜に集中させた。広域災害時にメインセンターへの回線が不通になった場合、各拠点から大阪センター経由で広島の衛星通信システム経由で横浜のデータセンターにつなぐ。図中、地が水色になっている部分は2重化したシステム。
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 だが、大規模な自然災害への対策としては不十分だと認識していた。「基幹システムを預けている野村総合研究所(NRI)の横浜データセンターは、震度6強の震災にも耐えられる。それより、地上の通信回線のほうが物理的な断線の危険性が高い。最長2週間は首都圏一帯で通信機能がマヒすることも考えられる」(青柳チームリーダー)。

 広域災害を想定したBCPでは一般に、数十km以上離れた場所にシステムを置いて2重化し、被災後にバックアップサイト側で業務を引き継ぐ。しかし国分は、入出荷や在庫、配送を管理する物流システムの中核部分を首都圏にあるメインのデータセンター1極で運用し、代わりに各物流センターからの通信経路を常に確保する方法を選んだ。理由は大きく二つ。1極にしたほうがシステム運用の負担を軽くできることと、システムを2重化するよりも衛星回線を使うほうが全体のコストを抑えられることだ。