マニラの「ブレインコール」のセンターは、日本語が堪能な女性オペレーターが多い。左下が岡本貴史取締役
マニラの「ブレインコール」のセンターは、日本語が堪能な女性オペレーターが多い。左下が岡本貴史取締役
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 メール配信サービスを提供するブレイン(東京都渋谷区)のコールセンターサービスが好調だ。フィリピン・マニラにコールセンターを設置して始めたアウトバウンドコール代行事業「ブレインコール」が、1年半で約100社の顧客を獲得し、年商1億円の規模に成長した。日本語ができる現地社員を活用し、日本向けの販促コールを日本の3分の1のコストで請け負える。「新規顧客開拓や既存顧客への販売促進にコールセンターを活用したいが、これまで予算が無かった」という中小企業を中心に取引先を拡大している。

 同社は2003年設立でメール配信サービスの「ブレインメール」を主力事業とし、国内で3600社の導入実績を持つ。欧米展開をにらみ、英語でサポートが可能なマニラにサポートセンターを設立したが、「海外事業がなかなか立ち上がらず、コールセンターは休眠状態だった」と天毛伸一代表取締役社長は振り返る。

 そこでコールセンターをほかの事業で活用できないかと考え、行き着いたのが日本企業の販促代行サービスだった。「フィリピンは英語圏だが、日本での就業経験がある人が多い。また、日本で結婚した母親の子どもも多い。そうした子どもは日本で義務教育を受けたので流ちょうな日本語を話せる」(天毛社長)。そこで日本での生活が長かった現地の女性や、日本企業の駐在員の家族などを中心に25人のオペレーターを採用し、2009年2月からコールセンター業務を開始した。顧客の問い合わせやクレームを受ける「インバウンド」ではなく、コールセンターから見込み顧客などに電話をかけて販促支援をする「アウトバウンド」のサービスに絞った。

 強みはコストだ。日本語を話すオペレーターを現地水準の賃金で雇用できるので、価格設定はコール1本当たり100円と「日本の相場の3分の1以下に抑えた」(天毛社長)。スクリプトに沿ってオペレーターが相手と会話し、その内容を記録して顧客企業にフィードバックして、見込みの高そうな潜在顧客の抽出に役立てる。東京の本社とコールセンターをVPN(仮想通信網)で接続しているため、電話に表示される番号は「03」から始まり、「マニラからかかっているとは思われない」(天毛社長)という。

 顧客企業は通販会社などが多く、「コールセンターを販促に活用したいが、コストがネックになっていた地方の中小企業などが多い」と天毛社長は話す。2009年1月から利用を始めた珍味製造卸の伍魚福(神戸市)では、スーパーや酒販店などの取引先に毎月1000~2000コールをかけ、新製品の案内や販促物の補充状況確認などに活用している。「営業担当者が30人弱なので、すべての取引先をフォローできなかった。かつての取引先で最近発注が無いところに案内コールをかけたところ、取引が復活したケースが増えている」とお客様支援室の定浪健太氏は話す。

 コールセンター運営の責任者であるブレインの岡本貴史取締役は、「事業開始当初はオペレーターとのコミュニケーションに戸惑うことが多かった」と振り返る。「インターネットで人材を募集し、100件の応募があったが、実際に面接に来るのはその3分の1。母親や友人が面接に付き添ってくるケースもあり面食らった」(岡本取締役)。また遅刻や無断欠勤も多く、「時間通りに出社しないので電話をかけても応答が無く、しばらくたってから携帯メールで欠勤を伝えてくることも日常茶飯事だった」という。

 「当初はいちいち怒っていたが、仕組みで変えなければ駄目だと考えた」と岡本取締役。遅刻や欠勤に備えて、多めに人員を配置するのに加え、現地人の女性リーダーの育成にも取り組んだ。「日本人男性である自分がガミガミしかるより、同じ立場の女性リーダーが指導するほうが効果があるはず」という推測が的中し、2009年後半からセンター運営が徐々にスムーズに回るようになった。定着率も良く、2009年末から退職者がほとんどいないという。

 「時間を守らないことにはイライラさせられたが、基本的に陽気な社員が多いのはメリットが大きい。アウトバウンド業務では話を聞いてもらえなかったり、電話をいきなり切られたりすることもあるが、めげずにすぐに次のコールをしてくれる前向きさは貴重だ」(岡本取締役)。こうした良さを保つため、コールセンターでは机の間の仕切りを無くし、「おしゃべりOK」の自由な雰囲気を作っている。