トヨタ流の改善で生まれた「書類進捗管理棚」
トヨタ流の改善で生まれた「書類進捗管理棚」
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 第一生命保険は2009年7月から都内のセンターでトヨタ流の事務処理改善に取り組み、成果を上げつつある。名義変更など保険契約の保全担当者のうち、まず都内の40人を対象に改善を始めたが、2011年中に全国で約200人の規模に拡大する計画だ。保全業務以外にもトヨタ流の適用を検討しており、先行的に始めた部門もある。保険会社がトヨタ流の事務処理改善に取り組む例は極めて珍しい。

 書類の処理時間を短縮しながら、逆に業務品質は大幅に向上した。改善から1年以上が経過した2010年10月時点で、保全業務に伴う書類1件当たりの処理時間は約15%改善できたうえ、記入漏れや間違いを見過ごして処理する「不備率(書類受付件数に対する不備件数の率)」は3分の1に減らせた。

 都内のセンターで取り組むに当たり、最初の半年間はトヨタ自動車のOBであるトレーナーに指導を受けた。こうして都内で9人の「BPR推進リーダー」が既に育っており、彼女たちが場合によっては東京以外の事務拠点にも出張して改善を横展開していく。BPR推進リーダーも保全業務のスタッフも全員が女性だ。トヨタのトレーナーは「これだけ女性が多い職場で改善活動をしたのは初めてだ」と漏らしたという。

 第一生命の東佳弘事務企画部BPR推進グループ(経営企画部兼務)大井事業所再編準備室次長は「生産性と品質向上の効果もさることながら、トレーナーの力を借りずに自分たちだけで改善を横展開できる人材が1年足らずで育った効果が大きい」と振り返る。

30分の仕事量を設定し、棚の状況で進捗を見える化

 トヨタ流の改善後、都内のセンターでは、その日に処理しなければならない仕事量を目で確認でき、人員の最適配分を決められるようになった。

 まず部屋の入り口近くには「書類進捗管理棚」を設置した。この棚には朝から夕方まで30分単位で仕切りが設けられている。センターのスタッフは全員、朝一番で書類の山を30分単位に仕分けし、毎日トレーに入れる。そうして「午前11時15分から同11時45分までの30分間にこなす書類はこれだ」などと誰でも一目で分かるようにした。

 この書類棚を設置したことで、進捗の遅れなどの異常も見える化できた。棚に納められた書類の量を見れば、「今日は何時に仕事が終わるか」が朝の時点で分かる。スタッフは精神的に楽になったという。

 そして、単位時間当たりの標準の仕事量を定めた。これまではスタッフによって処理時間のばらつきが大きかった。そこでトヨタ出身のトレーナーはスタッフの動きをビデオ撮影して分析することを勧めた。ビデオを見ながら、スタッフが文房具を取りにいく無駄や、やらなくてもいい過剰な確認作業などを見つけては省いた。こうして無駄を削った後に、30分単位の標準仕事量を設定した。

 併せて第一生命は人員の最適配分を決められる簡単なシステムを開発した。その日の仕事量を入力すれば、当日の出勤人数に照らしてスタッフごとの仕事量を割り振れる。これにより、システム上でその日の仕事の終了時間や余り時間を確認できる。余った時間はさらなる改善の検討時間に当てるなど、有効活用もできるようになった。

 こうした時間管理(タイムマネジメント)だけでなく、第一生命はトレーナーから継続的な人材育成の重要性も学んだ。スタッフに業務フローチャートを共同で作成してもらったり、3カ月に一度はベテランも新人も同じテーブルを囲んで議論する意見交換会を開催したりしている。当初は製造業のアプローチに戸惑っていたスタッフも、少しずつ改善に協力的になっていった。今ではセンターの部屋中に「改善第一」の張り紙が掲げられているほどだ。

 事務処理の改善にトヨタ流のような製造業の手法を適用する事例はまだまだ少ない。第一生命には見学やヒアリングの依頼が多数舞い込んでいるという。本家本元のトヨタグループからも申し出があったほどだ。こうした生産性と品質の向上活動が全国規模で浸透した後に、定型の事務処理を段階的に集約してシェアードサービス化することも第一生命は視野に入れている。