東レは2006年から全社的な物流改革に取り組み、燃料高などの逆境の中でもこの2年間で物流コストを10%削減した。営業部門や顧客企業を巻き込んで、帰りのトラックにも荷物を積む「往復物流」を促進。外注先の物流会社には「値下げ要求はしない」と宣言して協力体制を深めた。

 「物流部門は縁の下の力持ちだが、ただ製品を運べばいいという時代ではなくなっている」。東レの橘真一物流部長はこう話す。

 東レは1980年代以降、繊維から各種化学素材や医療機器へと製品の多角化を進めてきた。だが、全体最適の観点から物流を見直すことはなく、「外注先の物流業者との窓口役となり、値下げを要求することが物流部の仕事になっていた」と橘部長は振り返る。

 東レは橘部長の下、2006年から「コスト」「環境」「品質」の3つの観点から物流改革に取り組んでいる。この結果2008年度までの2年間で、全社の物流コストを10%以上削減した。CO2(二酸化炭素)排出量(売上高ベース排出原単位)も14%削減。2006年から施行された「改正省エネ法」が大口荷主企業に義務づける年間低減目標(1%)を大きく上回る水準である。誤配や破損といった物流事故の件数を従来の半数に減らし、品質も高めた。

●東レは、社内外との連携で物流改革を推進
●東レは、社内外との連携で物流改革を推進
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「営業の視点」で仕組みを見直す

2006年4月から東レの物流改革を推進してきた橘真一物流部長
2006年4月から東レの物流改革を推進してきた橘真一物流部長
写真撮影:北山 宏一

 東レに入社以来27年間、橘部長はほぼ一貫してフィルムや樹脂の営業畑を歩み、社長賞を受賞するなど敏腕営業マンとして社内で名が通っていた。2006年4月に物流部に異動するとまず、物流業者に対する値下げ要求をやめて、物流の仕組みを変えるという方針を掲げた。「長年営業をやっていて、顧客企業から値切られることが多かったが、いい思いはしない。値下げ要求では大幅なコスト削減はできない。無理のある改善は継続しない」(橘部長)。当時は好況下で燃料高が進んでおり、値引き交渉をしても削減の余地は少ないという判断もあった。

 実行した施策は主に2つある。第1に輸出入時の船舶輸送に使う国内の港を東京港など大都市の港ではなく、東レの工場や顧客企業の工場に近い地方港に切り替えた。港湾利用コストを抑えつつ陸送距離を短縮することで、輸出入にかかわるコストは従来の半分以下で済む。第2に、陸送区間は輸送ロットを大口化し、往復共に荷物を積むなどして効率を高めた。

 仕組みを変えるに当たって特別な手法を駆使したわけではないが、従来の東レはこれらを実行に移せなかった。「物流部に固定観念があり、社内にも見えない壁があった」と橘部長は説明する。

 船舶輸送については、東京港の船便は毎日あるが、地方港は週に数便しかない。これに応じて、納期を数日ずらす必要がある。従来の物流部は営業部門に遠慮して、納期を変えるという提案ができなかった。

 橘部長は自ら営業部門に乗り込んで「顧客企業と納期を調整してほしい。売るだけではなく、環境負荷を低減しつつお客様に届けるところまでが営業の仕事だ」と説得した。顧客企業の間でも環境問題に対する意識は高まっており、実際に営業担当者が顧客企業に説明に行ってみれば、数日単位の納期の変更は許容してもらえるケースが大半だった。物流部物流第2課の矢野茂課長代理は「橘部長は営業部門との調整などの側面支援をしてくれるので、改革を進めやすかった」と話す。

 もう1つの陸送の効率化については、例えば東レの東京周辺の工場で生産したフィルムを、顧客の化学メーカーA社の四国工場に輸送しているケースが典型だ。行きのトラックは東京周辺から四国までフィルムを積んで走るが、帰りはたいてい空車だった。

 よく調べてみると、実はA社四国工場はフィルムを加工して製品にし、東京周辺の別の工場に販売していることが分かった。そこで東レはA社に、帰りのトラックにこの製品を積んで運ぶことを提案。A社にとってもコスト削減につながるこの提案はすぐに受け入れられ、帰りの便にA社製品を積む往復物流が実現した。

 こうした仕組みの変更は、具体的には物流部の約30人が数人ごとのチームに分かれて、プロジェクト形式で進めた。日本海側の地方港を活用するプロジェクトなら「日本海プロジェクト」と名づけるなど、30件前後のプロジェクトが立ち上がっている。若手・ベテランに関係なく各プロジェクトのリーダーを任命して、成果を競わせた。

 プロジェクトによってはすぐに成果が出るものもあれば、顧客企業などとの調整に時間がかかるものもある。橘部長は「とにかく褒めて、部下にやる気を出してもらうことに徹した」と言う。コスト削減が進まなかった場合はCO2排出量削減を褒める、削減の絶対値が小さければ「50%削減」などと比率を褒める、といった具合である。