塩野義製薬は研究所のリーダー候補生を対象に、グローバル人材の育成を進めている。海外の研究機関との共同研究プロジェクトを率いるリーダーシップを身につけてもらうことが目標だ。選抜されたリーダー候補生には2年間の「グローバル研究リーダー研修」を受講してもらう。2008年春から受講した第1期生22人が2010年3月にプログラムを修了した。2010年5月からは第2期生16人が受講している。

 グローバル研究リーダー研修の前半ではファシリテーションやアクティブリスニング(傾聴)などのコミュニケーションスキルを学ぶ。後半では共同研究プロジェクトなどに参加して実体験を積む。研修プログラムは人事コンサルティング会社のピープルフォーカス・コンサルティングが策定した。

 薬価の改定などで国内市場が頭打ちになるなか、製薬各社は海外市場で競争力のある新薬の開発にしのぎを削り、海外メーカーの買収や、海外の研究機関との共同開発に乗り出している。塩野義製薬も2005年に発表した第2次中期経営計画からグローバル化の推進を打ち出した。この戦略を受け、研究所では部門長クラスが研究部門の「グローバル化」を協議し、「グローバルに通用する薬を開発すること」と定義した。そして海外メーカーや研究機関との共同研究でリーダーシップを取れる人材の育成が必要と判断した。

 そこで数年以内に研究チームのリーダーを務めると予想される22人を第1期生に選抜して、2008年春に「グローバル研究リーダー研修」を実施。1年目の前半にファシリテーションやアクティブリスニング、プレゼンテーション、ネゴシエーションといったコミュニケーションスキルを、1カ月に一度、1~2日のワークショップで習得。1年目の後半はそうしたスキルを、自分が所属する国内の研究チームで実際に使ってもらった。

 2年目はOJT(職場内訓練)として、海外のメーカーや研究機関との研究プロジェクトなどに加わり、実際の業務でグローバルなコミュニケーションを経験した。事前に上司と相談してストレッチした目標を設定し、ゴールイメージを作っておく。海外出張でのミーティングや、海外のカウンターパートとの電話会議を通じて、前年に学んだスキルを活用してリーダーシップを発揮できるようにした。

 研修を企画した医薬研究本部研究戦略オフィスの野村和秀研究企画グループ長は、「徒手空拳で海外とのプロジェクトに加わるのではなく、事前にコミュニケーションスキルを学ぶことで、グローバルなチームでの仕事に加わるプレッシャーを軽減できるようにした」と話す。

「積極的に海外のメンバーに自分の主張を展開できた」

 第1期のメンバーだった創薬・探索研究所創薬化学部門の服部一成主任研究員は「2年目に実際に海外の研究チームとのプロジェクトに参加したことで、自分が大きく成長した」と振り返る。「事前にコミュニケーションスキルを習得したことで、積極的に海外のメンバーとのコミュニケーションに臨み、自分の主張を展開できた」という。

 1年目の研修ではピープルフォーカス・コンサルティングのコンサルタントが、受講者に個別にアドバイスした。服部研究員は会話において「dig deeper(深堀)」を心がけるようにコンサルタントから言われたことが最も有益だったと話す。「相手の話をよく聞いて、『なぜそう思うのか』『具体的にはどう感じているか』というように会話を掘り下げられたことで、相手に『自分の話をよく聞いてくれている』と信頼してもらえるようになった」

 コミュニケーションスキルの習得は、海外プロジェクトだけでなく、国内の日常業務でも役立っている。服部研究員は「ファシリテーションのスキルを活用して研究チーム内のミーティングで議論を活性化させたり、まとめたりする役割を積極的に担った」と話す。次期リーダーとしての意識も高まった。第2期生のプログラムは1年半に短縮したが、第1期と同様、コミュニケーションの基本を学んだうえで、実際の業務のなかで海外との接点を作っていく。