ファンケルは2008年10月、8カ所に分散していた物流センターを1カ所に集約した。その結果、従来より30%少ない約200人で運営できるようになった。2009年5月までに誤配送率はかつての4分の1、0.01%まで低下。在庫日数は28日から24日に平均4日分減らせた。

 ファンケルの化粧品を愛用するOLのAさん。同社のネット通販を何度も利用している。スキンケアの洗顔パウダーや化粧液、乳液をカート(買い物かご)に入れ、夫が飲むビタミンなどの栄養補助食品(サプリメント)も数種類購入。この日は発芽玄米に青汁、肌着まで買った。Aさんは敏感肌で悩んでいた時にファンケルの「無添加化粧品」に出会い、気に入って使い続けてきた。

 ただし、不満もある。たくさん買い物した時に限って、面倒が起きるからだ。まとめて注文したのに各商品が自宅にばらばらに届くことがあった。

 このエピソードは実話ではないが、現実にAさんと似たようなことが起きていた。商品の配送が複数回に分かれてしまう利便性の悪さは、ファンケルが急成長を遂げた過程で生まれた「ひずみ」だ。出荷能力を強化するため、あちこちに増設した物流センターの点在が原因だった。

 無添加化粧品からスタートしたファンケルは、次々に商品群を拡大。販路もカタログ通販やネット通販だけでなく、約200カ所ある直営店や、コンビニエンスストア、ドラッグストアなど合計で約3万ある小売店、海外への輸出まで広げた。

 そのため、継ぎ足しで増設したセンターが8カ所まで広がってしまった。各商品を別々のセンターから出荷し、顧客が商品を受け取る回数が2回以上に分かれる「別送」があった。しかも、間違った商品が届く誤配送もまれに発生していた。

 ほかにも不都合があった。センター間で同じ在庫を持ち合ったり、在庫の移動をかけたりする無駄が発生していた。商品が分散していれば、それだけ在庫管理は複雑さを増す。ファンケルにとっては命取りになりかねない状態だった。

 ファンケルは防腐剤を使わない無添加化粧品や保存料を使わない健康食品を売り物にする。それだけに商品の安全・安心を損ねないよう、鮮度を厳重に管理している。長期保存できない商品が滞留すれば業績の悪化にもつながりやすい。

 6つの自社工場から8カ所のセンターに商品を供給し、そこから多方面の販売チャネルに出荷するという従来の物流形態は、製造ロット管理や先入れ先出し管理を徹底するには煩雑だった。ファンケルはセンターの商品補充担当者を増やすことで、何とか鮮度を担保してきた。だが、人手に頼るやり方は限界に近づいていると感じていたのだ。

大胆なセンター集約とICタグ導入を決断

 このままではSCM(サプライチェーン・マネジメント)が破綻する──。創業から25年が過ぎた2006年3月、ファンケルは抜本的な物流改革に乗り出した。狙いは主に4つだ。(1)商品配送が複数回に分かれる別送を無くす、(2)誤配送を無くす、(3)在庫の一元管理、(4)鮮度管理の再徹底である。

●ファンケルにおける商品物流体制の推移。2008年10月に拠点の集約を終え、新センターがフル稼働した<br>*1 冷凍品のセンターが別に1カ所ある<br>*2 このうちシステム投資額は5億5000万円で、3年で回収予定<br>DPS:デジタルピッキングシステム<br>POS:販売時点情報管理
●ファンケルにおける商品物流体制の推移。2008年10月に拠点の集約を終え、新センターがフル稼働した
*1 冷凍品のセンターが別に1カ所ある
*2 このうちシステム投資額は5億5000万円で、3年で回収予定
DPS:デジタルピッキングシステム
POS:販売時点情報管理
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 そして、明確な数値目標を設定した。顧客1人の注文が2回以上の配送に分かれる「別送率」は注文全体の平均4%あったが、これを0%にすることにした。同時に、0.04%あった誤配送率は0.005%まで引き下げる。冷凍品以外の在庫はすべて1カ所に集めて集中管理し、製造ロット単位での倉庫からの先入れ先出しの精度を100%にする。

 目標を達成するため、2つの決断を下した。1つ目はセンターの統廃合だ。8カ所のセンターをすべて廃止し、新設する約4000坪(1坪は3.3m2)の「関東物流センター」(千葉県柏市)に出荷業務を集約。ここから全国に配送する。投資額は15億9000万円に及んだ。注文商品はすべて、受注当日に1回の配送で出荷を済ませる「1注文1配送」を確立する。

 センターを1カ所に集約することは、いいことずくめではない。災害リスクは高まる。それでも「お客様が受ける配送や鮮度のメリットや当社のコストメリットと、災害対策を比べて、前者のセンター集約効果を優先した」(カスタマーサービスユニット物流企画グループの永坂順二マネージャー)。

 もう1つの決断は、ICタグと自動倉庫の導入だ。ICタグを1万4000枚採用し、ピッキングや検品時の商品識別や高速で動くラインの道筋制御を自動化した。2000品目を扱うセンターの規模でのICタグ導入は他業界を見渡してもまだ珍しい。これで誤配送を撲滅する。年間740万枚も印刷していたピッキングリストは全廃し、人の判断を無くした。

 同時に、先入れ先出しを徹底するため、自動倉庫からピッキングラインへの在庫補充も自動化した。ピッキングラインの棚から注文商品を1品ずつ拾い上げて、注文別にケースに入れる作業はICタグの情報に従って人手で行う。それを検品・梱包する作業もパート社員がこなす。自動化と人手を使い分けながら誤配送率を目標値まで下げる。

 ICタグを使った出荷体制は物流機器大手のダイフクと構築し、センター内の情報の流れをコントロールする倉庫管理システムはNECと開発した。センター運営は日立物流に委託した。