利益額を最大化する“最適売価”算出

 例えば、仕入れ値が298円の商品の売価を398円に設定すれば、粗利益は100円になる。448円に設定すれば、粗利益は150円だ。利益率が高い448円で売りたいところだが、販売実績と照らし合わせて、掛け算した利益額が大きいのが398円であれば、398円で売ったほうが合理的だ。これが最適売価になる(上の図)。

 理屈は単純だが、新商品などについて加盟店が独自に決めた売価と売り上げなどの情報を、HEART-ONEで集約できるからこそ、こうした計算ができる。実際に売ってみたデータを加盟店間で共有し、利益額をシミュレーションすることで適正水準を算出しているのだ。

 いったん最適売価を設定したら、加盟店は原則としてこの価格に合わせる。ただしシティストアサーブの渡辺店長は「最適売価に合わせるのは、当初は抵抗があった」と、一般的な加盟店主の本音を代弁する。

 加盟店にとって、利益確保のために高めにしがちな価格を最適売価に値下げすれば、利益率は下がる。値下げしてすぐに売り上げ個数が増えるわけではないため、当初は売上高・利益額ともに落ち込んだ。ただ、その後2~3カ月で売り上げが回復し、今では前年比2割増程度で推移。さらに半年程度遅れて利益額も従来を上回るようになった。「ほかの加盟店さんの実績を踏まえた最適売価だということを信じて、最初はぐっと我慢した」と渡辺店主は話す。

 逆に言えば、利益率を追う→高値を付ける→売れない、という従来の悪循環を、最適売価をテコにして断ち切ったのだ。

全日本食品のCIOに当たる竹嶋孝一執行役員情報システム本部本部長
全日本食品のCIOに当たる竹嶋孝一執行役員情報システム本部本部長

 最適売価は一度設定したら競合店が値下げしても数カ月間は変更しない。おおむね、大型店の通常価格に匹敵するが、特売価格よりは高いという設定になる。やみくもに値下げするのではなく、「お客様は身近で気軽に買い物できる利便性があって、しかもなじみの商品に割安感があれば買いに来てくれる」(竹嶋執行役員)という考え方だ。近所にあって、店内を探し回らなくても気軽に買い物ができるという小規模店のメリットを、的を絞った値下げ策で強化したことになる。

 全日食チェーンの加盟店であるシティストアサーブの近隣には、「他店より1円でも高ければ値下げする」と宣言する中堅スーパーチェーン、オーケー(東京・大田)の大型店「オーケーストア十条店」がある。安売りでスーパー業界に名をとどろかせるオーケーと、シティストアサーブの価格を比較すれば、全体的にはオーケーのほうが安い。

 ただしシティストアサーブは、NBの売れ筋商品に限れば、そん色ない価格を付けている。例えば日本ハムのウインナーソーセージ「シャウエッセン」は、オーケーでもシティストアサーブでも398円。オーケーとシティストアサーブの中間ぐらいの規模の食品スーパーでは598円で売られている商品を、割安感のある価格で提供している。

 しかも、シティストアサーブは曜日などを限定して値引きする「特売」はほとんど実施しない。エブリデーロープライスが原則で、多くの値札には「5月末までこの価格!」という表示がある。「以前は『1人1個限定』といった赤字覚悟の特売で集客することもあったが、それでは継続できない」(渡辺店長)

品目数絞り込みと自動発注も

 新・商品施策の導入では、大手小売業にとっては常識でも、小規模店ではなかなかできなかった領域の改革にも踏み込んだ。

 まず、取り扱い品目を絞り込んだ。ナショナルブランドを中心とした1000品目の重点商品を決めて、これを集中的に仕入れて店頭に並べている。シティストアサーブでは、取り扱い品目を約2800から2300まで絞り込んだ。「ずっと扱っていた商品をなくすのは抵抗があったが、データがあったので踏み切れた」(渡辺店長)。HEART-ONEから得られる情報を支えに商品を絞り込み、空いたスペースを生かして、売れ筋商品は2~5列のスペースを割いて並べる。

 しかし、重点商品が欠品しては意味がない。大手チェーンとは違い、人手にも限りがある。シティストアサーブの場合、渡辺店長と社員・アルバイトを含めてわずか10人前後で切り盛りしている。そこでHEART-ONEでは重点商品の日次販売数、販売数のバラツキ、閉店時在庫数などのデータから補充数を割り出す自動発注機能を備えた。これによって、発注担当者は自動発注対象外である生鮮品などの発注に専念できるようになり、1日1.5~2時間かかっていた発注作業が30分程度で済むようになった。

 今後の課題は新・商品施策の定着だ。シティストアサーブのように新・商品施策を採用している加盟店は、まだ全体の約6割だ。旧式のPOSシステムを使っている加盟店は、これを切り替えなければ最大限の効果を発揮できない。「成果をデータで提示し続けることで、加盟店の理解を促すしかない」(竹嶋執行役員)。これが、ボランタリーチェーンが大手チェーンに対抗する条件となる。