切削工具を製造する日本特殊陶業セラミック関連事業本部機械工具事業部は、2006年からTOCを活用して、社外の製造や設計など広範囲で納期短縮などに取り組んでいる。製造部門の仕掛かり在庫を半減するとともに、注文から納品までのリードタイムが最大83%短縮した。

 日本特殊陶業セラミック関連事業本部機械工具事業部で改善活動に取り組んでいた製造部の山田正通次長は2005年当時、思うように成果が出ないことに悩んでいた。2002年からインダストリアル・エンジニアリング(IE)などを活用して各工程の歩留まりを改善するなどしたものの、製造部門全体の財務的な成果に結び付かなかった。

 山田次長が全体最適の実現手法として目をつけたのが、TOC(Theory of Constraints=制約条件の理論)だった。イスラエルのエリヤフ・ゴールドラット博士が考案した業務改革手法である。

 日本特殊陶業セラミック関連事業本部機械工具事業部は、旋盤に取り付けて切削するための工具を製造している。同事業部は、売上高の半分を顧客の要望に応じて標準品を改良してサイズを変更する「別注品」が占めている。標準品に比べると不況でも需要が安定しており、利益面でも標準品より貢献が大きい商品群だ。

日本特殊陶業が製造する切削工具。顧客の要望に応じて仕様変更する別注品の受注が5割ある
日本特殊陶業が製造する切削工具。顧客の要望に応じて仕様変更する別注品の受注が5割ある

 別注品はいったん試作品を納入して顧客企業に品質検査などを実施してもらった後、追加注文を得るビジネスである。営業部門が顧客から受注し、設計部門が設計・開発して、製造する。顧客からは「設計から最初の納品までのリードタイムが長過ぎる」という不満の声が同社に寄せられていた。

 しかしリードタイム短縮には、2つの大きな課題があった。1つ目は、製造工程の半分がグループ会社や外注先といった社外にまたがることである。工具の製造工程には大きく分けて「焼成」と「加工」とがあり、加工は社外に委託している。従来の改善活動は社外を巻き込めなかった。そこで管理ルールを最適なものに見直すアプローチのほうが社外を巻き込みやすいと考え、TOCの在庫管理手法「DBR(ドラム・バッファー・ロープ)」に着目した。

 2つ目の課題が、設計リードタイムの短縮だった。当時、試作品の受注から納品までのリードタイムのうち設計だけで4週間かかっていた。このために、TOCのプロジェクトマネジメント手法「CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクト・マネジメント)」を設計部門には導入した。

●日本特殊陶業におけるTOC導入の概要。外注先も含めて考え方を取り入れてきた
●日本特殊陶業におけるTOC導入の概要。外注先も含めて考え方を取り入れてきた
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