pin@clipの画面。吹き出しが顧客が投稿した情報。吹き出しの左側の数字「2A」などはフロア名だ
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店舗内でpin@clipを利用しているところ。東急ハンズが用意したピンの中には画像を添付しているものもある
店舗内でpin@clipを利用しているところ。東急ハンズが用意したピンの中には画像を添付しているものもある
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 東急ハンズの東京・渋谷店は2009年12月1日からアップルの携帯電話端末「iPhone(アイフォーン)」所有者を対象にしたユニークな販促活動を実施している。「AR(拡張現実)」といわれる技術を用い、iPhoneのカメラを通じて店内を見ると、東急ハンズが提供する商品情報や顧客の投稿した感想が浮かんで見えるようにした。現実の映像や写真に、イラストや文字などの付加情報を合成表示するARによって、店頭売り場の価値を高めようという先進的な試みだ。

 東急ハンズの営業企画部営業企画課の宮内健二郎主任は、「最初はPOP(店頭販促)の置き換えとして利用しようと考えていた。今では店舗の担当者の生の声を顧客に伝えたり、顧客の売り場での感想を交換したりと、双方向のコミュニケーションを促進できるプラットフォームだととらえている」と話す。

 この販促活動は、東京急行電鉄やNECなどが共同で渋谷駅周辺で実施中のプロジェクト「pin@clip(ピナクリ)」の一部。同プロジェクトは経済産業省の「e空間実証事業」の一環として進められている。

 iPhoneユーザーが米アップルのソフトウエア配布サイト「App Store」からpin@clip専用ツールをダウンロードすれば、ARを利用可能。渋谷店に入店し、iPhoneからpin@clip専用ツールを起動して店内を見回すと、東急ハンズが提供する商品情報が、吹き出しの形で浮かんで見えるようになる。例えば、「外から見えずに花粉をブロックする商品が登場」「簡単にクッキー作りができるクッキーミックス」といった情報が、該当する商品の売り場を見た時に表示される。

 pin@clipでは吹き出しを「ピン」と呼んでいる。営業企画課の綾部孝氏は「東急ハンズからはちらし情報を中心にピンを出すようにしている」と話す。ちらしを見て来店した顧客を誘導する狙いだ。

 実際は東急ハンズから出すピンには、顧客がいるフロアに関する情報と、上層階や離れたフロアに関する情報の2種類があり、自動的に顧客を分類してどちらかの情報だけを表示するようにしている。どちらの情報が販促に役立つかを検証する予定だという。

売り場にAR対応専任の担当者を配置

 ピンは顧客も投稿することができる。東急ハンズ、顧客のどちらが投稿したピンなのかは表示上区別していない。「この商品かわいい」「おいしそうなチョコレートが並んでいてお腹かすいてきた」といった感想が投稿されることを想定している。

 もちろん投稿されるのは前向きな感想ばかりとは限らない。pin@clipを開始するに当たって、疑問や苦情のピンにすぐに反応できる体制も整えた。店舗の販売担当者の中から顧客のピンに返信する担当者を10人指名したほか、営業企画部が「探していた商品がない」などのクレームが投稿されていないか1時間ごとに確認している。

 7階建ての店舗内で、pin@clipを利用する顧客がいる位置を特定するための専用の情報システムも構築した。温度や音声を感知するセンサーを天井に設置し、顧客がいる位置を推定する。大きいフロアや顧客が集中するフロアには2カ所、小さいフロアには1カ所、センサーを設置している。屋外であればiPhone内のGPS(全地球測位システム)で位置を検出することもできるが、東急ハンズ渋谷店内ではGPS機能は利用できないという。

 現在、pin@clipのモニターは「8000人程度」(宮内主任)とみられるが、東急ハンズ渋谷店内での顧客のピンの投稿は1日10件程度。「想定よりも少ない状況」(同氏)だ。pin@clipの実証実験は2010年3月10日で終了する予定だが、東急ハンズはその後もARを取り入れた販促活動を継続していく考え。実験期間が終了する3月までに投稿を促進できる仕組みを確立したいとしている。