拠点のファイル・サーバーは外部へ

 こうしたプライベート・クラウドの取り組みとして,例外になっているサーバーがある。ファイル・サーバーとメール・サーバーだ。Windowsや Linuxベースのパッケージ系アプリケーションを仮想化するという同社のポリシーからすると,ファイル・サーバーやメール・サーバーは仮想化候補の筆頭に挙がってもおかしくない。

 ただ,各種サーバーの集約を進めている中にあって,ファイル・サーバーだけは拠点ごとに残っていた。用途が,パワーポイントなどの文書ファイルの保存で,基本的に拠点に閉じたものだからだ。LAN上でのファイル共有の方が性能を確保できるメリットもある。

 とはいえ,拠点ごとのサーバー運用は,管理の観点からは望ましくない。拠点ごとに簡易サーバー管理者は必要になるし,トラブルともなればシステム部門から現場に駆けつけなければならない。そこでキリンが考えたのが,ホスティング・サービスの利用である。既にシステム・インテグレータのシーエーシー(CAC)と契約を結び,2009年11月,キリンビールの一部拠点で利用し始めた。「2009年中に30拠点,2月までにはキリンビールの約100 拠点すべてのファイル・サーバーをホスティングに移す」(吉田担当部長)という。

 同社がCACと契約を結んだのは,キリン専用のホスティング・サービス。キリン側でシステムの要件を提示し,その運用を任せている。Hyper-Vを使った仮想化環境に約100拠点のファイル・サーバーを束ね,拠点からはArcstar IP-VPNを介してアクセスする。

高速化装置を使い応答性能を向上

 WAN越しでのアクセスとなれば,従来よりも応答性能は落ちる。「営業担当者が扱うファイルは写真を多用していることが多く,容量が大きくなりやすい」(吉田担当部長)。その分,WANの遅延の影響を受け,ファイルの読み出し,保存の時間が長くなる。

 この使い勝手を改善するため,ジュニパーネットワークスのWAN高速化装置「WX」を使うことを要件に含めた。同装置はデータ圧縮やプロトコル最適化などにより,遅延の影響を減らし,見た目の回線速度を高めるもの。キリンが使いたいファイル共有(CIFS)では高い効果がある。

 WAN高速化装置はほかのベンダーも提供しており,CIFSを利用する場合では,どの製品でも効果に大きな違いは出ない。それでもジュニパー製品を選んだのは,他社製品に比べてアプライアンスとしての信頼性を高めてある点を評価したからだ。具体的には,ジュニパー製品はOSがROMに書き込まれているため,ハード・ディスク故障などの障害を避けやすい。ファイル・サーバーを統合したのはまだ数拠点に過ぎないが,「WAN高速化装置を使わない場合に比べると,応答速度は2分の1程度。LAN環境との違いは気にならない」(吉田担当部長)という。

 もう一方のメール・サーバーを従来通り運用し続けているのは,Webメール・サービスの利用が念頭にあるため。現在,候補となるサービスをリストアップし,コスト効果の評価を進めている。その結果によって,仮想化環境に移すか,ホスティング・サービスを使うかを決めるという。

●企業情報

本社:東京都中央区新川2-10-1
資本金:1020億4579万円
売上高:2兆3035億6900万円
(2008年12月期連結)

主な事業分野は酒類,飲料・食品,医薬品。2007年,グループ経営体制に移行した。国内外の企業との提携や買収を積極的に進め,事業の拡大を図っている。グループのスローガンは「おいしさを笑顔に」。