読売巨人軍(東京都千代田区)は、ファンクラブ組織を活用したマーケティング活動で大きな成果を上げている。原辰徳監督率いるジャイアンツがセ・リーグ3連覇と日本一を成し遂げた2009年シーズンには、東京ドームで主催した63試合の観客動員数が前年度比2%増の274万622人に達した。2005年に実数を発表し始めてから最高の集客力に陰で貢献しているのが、3年がかりで取り組んでいる顧客データベースの構築・活用だ。ファンクラブ組織「G-Po」(ジーポ)の会員登録数は前年度比55%増、球団史上最多の14万8609人に達した。有料会員は同22%増の3万7739人だ。

 同社がG-Poを企画したのはチームが2年続けてBクラス(リーグ4位以下)に終わった2006年シーズンのオフ。地上波でのテレビ放送の機会は減り、観客動員数にも陰りが見えていた時期だった。読売巨人軍は12球団随一の人気を誇り、都心のドーム球場で試合を主催できるという恵まれた経営環境にあったため、マーケティングには決して熱心とは言えなかった。

 例えば、それまで観客の属性を把握する調査は、年間に3試合ほど球場の入り口でアルバイトらが観客の性別、年齢を目視で確認するというアナログな方法しか実施していなかった。顧客情報としては正確さに欠けるうえ、どの地域から来ているのかは把握できない。

 球団が事務局を務める組織だけで2つ、クレジットカード会社の特典としての組織を加えるとファンクラブは3つも存在していた。3つのうち中核の組織には会員数の上限を設けていた。長年、主催試合のチケットは高い人気があったのでファンクラブに頼らなくてもさばける状態が続いていたからだ。「各組織の顧客情報は一元化されていなかったので様々な面で無駄も多かった」と営業企画部の深山淳也氏は振り返る。

 そこで、2007年4月に、来場回数や、「My Hero」(マイヒーロー)として登録したお気に入り選手の活躍などに応じたポイントを供与して、プレゼントを提供するポイントサービスとしてG-Poを開始した。システム構築はIT(情報技術)ベンダーのインデックスに依頼した。深山氏は「とにかく球場を観客で埋めようと考えた。ファンが球場に戻ってくれば、テレビの放送回数もグッズ収入も増えるはずだ」と話す。ファンクラブ対策で先行していた千葉ロッテマリーンズなどのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)システムを参考にした。

 2007年シーズンは開幕の数カ月前からG-Poを作り始めたので、「初年度はとにかくポイントサービスとしての形を整えるだけで精一杯だった」(深山氏)。翌2008年シーズンには、元々あった2つのファンクラブとG-Poを統合する業務に追われた。G-Poは、ポイントサービスの名称からファンクラブ組織の名称へと変更した。同年は史上最多となる会員9万人から来場に関する様々な情報を蓄積することに注力した。そのため、2009年がようやく「本格的にデータを生かし始めたシーズン」(深山氏)になった。

 G-Poのデータを活用した成功例の1つが、平日の集客対策だ。観客が少なくなりそうな試合は、特定の人気選手のベースボールカードを配るなどのプレイヤーズデイにした。そのうえで5月25日の「李承ヨプ(漢字は火へんに華)・デー」、6月8日の「ラミレス・デー」には、2人をG-Po上でマイヒーローに設定している会員1万2500人にダイレクトメールを送って来場を呼びかけたところ、28%に当る3500人が来場した。

 「何も手を打たないときより700人多い計算になる。ダイレクトメールを打つだけなら今までもできたが、来てくれる見込みが高いファンにだけ送れるようになったのはG-Poの成果だ。チームが強い時も弱い時もファンに球場に足を運んでもらえる体制を築きたい」と深山氏は抱負を語る。

 増収に向けた今後の課題は、G-Poのポイント管理をチケット販売以外にも展開することだろう。読売巨人軍は、埼玉西武ライオンズ(関連記事)や東北楽天ゴールデンイーグルスとは異なり、球団側でホーム球場を保有・管理していないため、東京ドーム内での飲食やグッズの売り上げとG-Poを連携させることができていない。球場内でのこうした消費でG-Poのポイントに加算できるようになれば、熱心なファンに来場を促す仕掛けになるのは間違いない。