変化の激しいインターネットを主戦場とするサイバーエージェントは、5年前まで営業赤字から脱却できないでいた。社員が新事業に挑む意欲を失うことなく、利益を出せる企業に変貌できたのは、事業を“リーグ分け”する制度「CAJJプログラム」の成果。現在の約20事業の半数が新事業だ。

 サイバーエージェントグループの事業ポートフォリオ管理の仕組みであるCAJJプログラムは、全事業をリーグ分けし、事業リーダーにリーグ昇格への意欲をかき立てている。「昇格すれば、昇格を祝うポスターがあちこちに掲示され、事業を越えてみんなから賞賛される。この仕組みはリーグごとに業績目標と達成期限が明確なので、事業責任者が部下との間で目標と方向性を共有しやすい」

 こう語るのは、ブログサイト「Ameba(アメブロ)」の運営会社であるサイバーエージェントの子会社、cybozu.net(サイボウズ・ドットネット、東京・渋谷)の椿奈緒子取締役COO(最高執行責任者)だ。まだ20代後半ながら椿氏が経営を担うcybozu.netは、昨年7月に最上位のリーグ「J1」へ昇格した。

 同社はグループ全体で2009年2月現在約20の事業を手掛ける。これらは「インターネット広告代理事業」「インターネットメディア事業」「Ameba事業」「投資育成事業」に大別でき、検索連動型広告、ショッピングサイトや価格比較サイト、FX(外国為替証拠金取引)専門会社などが含まれる。

●売上高の9割強がネットの広告代理事業とメディア事業だ
●売上高の9割強がネットの広告代理事業とメディア事業だ

新事業が乱立し、撤退ルールが不透明

 今でこそ、国内のネット広告代理事業やネットメディア事業で最大手の一角を占めるサイバーエージェントだが、2004年前半までは経営不振にもがいていた。1998年3月設立の同社は、2年後の2000年3月にマザーズに上場。ところが4期連続で営業赤字を記録した。明確な事業撤退のルールが無かったうえ、経営人材が不足していた。

 そこで黒字化プロジェクトの一環として2004年5月にCAJJプログラムが導入された。これは「サイバーエージェント事業&人材育成プログラム」の略称で、事業ポートフォリオ管理と事業リーダー育成の目的を兼ねる。「CAJJが無ければ事業縮小や撤退の判断が遅れて、経営がもっと悪化していたかもしれない」と中山豪常務取締役は振り返る。1事業ごとに半年サイクルで育成・撤退を判断し、毎週のように経営資源の再配分を検討。中山常務はCAJJ導入後、各事業責任者との個別会合を毎月開いて経営状況を聞くようになった。しかも日次の会計管理を各事業で徹底させた。

CAJJプログラムの仕組みを考案し、改善を重ねてきたサイバーエージェントの中山豪常務取締役
CAJJプログラムの仕組みを考案し、改善を重ねてきたサイバーエージェントの中山豪常務取締役
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 その後は2008年9月期まで5期連続で営業黒字を確保。CAJJ導入前年度の2003年9月期と比べて2008年9月期の売上高は5倍強の870億円になり、営業利益は46億円になった。

 CAJJでは、グループ内の事業を粗利益の大小によって「J1」~「J3」の3リーグに分ける。新事業はJ3に入り、半年以内に粗利益が月500万円を超せばJ2に昇格。さらに1年以内に同1500万円を超せばJ1に昇格する。逆に,粗利益がこれらの昇格基準額を下回り、再建案も提示できなければ降格や撤退、売却、責任者交代になる。

●事業と人材を育成するための経営管理の仕組み「CAJJプログラム」を導入後、利益を着実に出す企業体質に変貌
●事業と人材を育成するための経営管理の仕組み「CAJJプログラム」を導入後、利益を着実に出す企業体質に変貌
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 2009年2月現在約20の事業のうち9つはCAJJ導入後に種をまいた31もの新事業の中の“生き残り”であるという事実が、事業ポートフォリオ管理の重要性を裏付けている。

●CAJJプログラムを2004年5月に導入して以降、事業ポートフォリオを毎週のように見直すことで、変化の激しいネット業界で利益を確保し続けてきた
●CAJJプログラムを2004年5月に導入して以降、事業ポートフォリオを毎週のように見直すことで、変化の激しいネット業界で利益を確保し続けてきた
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