パソナテックの法人営業改革を推進してきた末久裕二執行役員CAcO(チーフ・アカウント・オフィサー)アカウント営業部長(右)と久米廣志事業戦略本部マネージャー(左)
パソナテックの法人営業改革を推進してきた末久裕二執行役員CAcO(チーフ・アカウント・オフィサー)アカウント営業部長(右)と久米廣志事業戦略本部マネージャー(左)
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「リンクナレッジ」のトップ画面例。名刺情報を登録した企業のニュースを自動表示する機能などがある
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「リンクナレッジ」の名刺詳細情報画面の一例。これらの情報はパソコンや携帯電話から見ることができ、複数の社員で共有することもできる
「リンクナレッジ」の名刺詳細情報画面の一例。これらの情報はパソコンや携帯電話から見ることができ、複数の社員で共有することもできる
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 IT(情報技術)人材の派遣サービスを手がけるパソナテックは、営業担当者の机の引き出しに埋もれがちになっていた名刺の活用を徹底することで、営業強化に成功している。全国に100人程度いる営業担当者が入手した名刺をすべてデータベース化し、効率的なチーム営業プロセスを確立した。

 まず2008年11月から名刺情報の電子化に着手。このために全国9拠点に三三(東京都千代田区)が提供する顧客管理サービス「Link Knowledge(リンクナレッジ)」をいっせいに導入した。社名や担当者名、取引内容、提案内容などを登録している。2009年10月時点で2万件強に上る顧客データベースを構築している。

 さらに受注の可能性に応じて顧客企業をA、B、C、Dに分類した。そしてA区分の企業に対しては毎月、B区分企業には2か月に1回、C区分企業には3カ月に1回はコンタクトを取るというルールを定めて、営業担当者に順守させ始めた。

 2009年5月には、顧客データベースの月間更新率(登録済みの顧客データのうち、その月に何らかの情報更新が行われた顧客データの割合)が69%に達した。2008年11月は7%に過ぎなかった。つまり、受注の可能性が高いと判断した顧客企業に、各拠点の営業担当者がまめに訪問し、新しい名刺や情報を持ち帰る活動が徹底され始めた。その結果、2008年11月から2009年5月にかけて、A~Cのいずれかに区分した企業の8割で、取引額を10%以上拡大できた。各顧客企業が望むタイミングで、IT人材の派遣提案をできるようになったことを意味する。

 パソナテックの末久裕二執行役員CAcO(チーフ・アカウント・オフィサー)アカウント営業部長は、「実は以前にも、ほかのSFA(セールス・フォース・オートメーション)ツールを導入して顧客情報を一元管理し、戦略的なチーム営業を実践しようとしたことがあった。だが、数カ月で挫折した。営業担当者が情報の入力作業を苦に感じたり、機能が多すぎてかえって使いにくいと感じたりしたためだ」と明かす。

営業担当者に活用メリットを感じさせた

 今回の新営業体制を支えるリンクナレッジを全国の営業担当者たちが受け入れた理由は「作業的・心理的な手軽さ」にある。リンクナレッジの利用契約を結ぶと、名刺スキャナーと専用パソコンが三三から送られてくる。営業担当者は顧客企業を訪問して名刺を得たら、1日の終わりに名刺をまとめてこのスキャナーに通しておくだけでいい。

 すると、名刺画像データが三三のデータセンターへインターネットを介して自動転送された後、名刺に記載された会社名、部署名、氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどのテキスト情報が日付情報と一緒に顧客データベースに格納されていく。リンクナレッジには「名刺CRM」と呼ぶ日報機能もあり、名刺情報を登録した顧客企業の担当者データと関連づけた日報を作成できる。

 パソナテックには日報を書くという文化はなかったが、リンクナレッジの導入を機に、自分が実行したことや顧客企業から言われた課題などを日報として書くように指導し始めた。末久アカウント営業部長は、「自分の行動履歴を蓄積・分析すると、スキルアップにつながる」「他人の営業スタイルを見るのは、勉強になる」などと言って現場を鼓舞し続けた。

 同社の営業部門が、リンクナレッジを使った顧客データベースで今後積極的に活用しようと考えている機能の1つに「組織ツリー」がある。これは顧客企業ごとの人脈をツリー形式で一覧表示する機能だ。営業アプローチをかける前に、その企業に対するパソナテック側の人脈とコンタクト履歴を調べるのに役立つ。

 例えば、営業担当者がある企業の人事部門を訪問する前に、その企業の組織ツリーを調べると、幹部同士に面識があることが分かる。この人脈を活用し、人事部門を攻略する戦略を立てられるわけだ。末久アカウント営業部長自身は、営業担当者全員の日報に毎日目を通し、組織ツリーなども参考にしながら、電話やメールを駆使してアドバイスを送り続けてきた。「フィードバックすることで、日報を書き続けるモチベーションを高められている」という。

名刺データの共有を起点にしたSFAやCRM導入に関心高まる

 三三が2007年9月から提供を始めたリンクナレッジサービスの導入企業数は、現在250社以上ある。パソナテックのような法人営業用途以外では、企業役員が使うケースが多いという。

 一般的には、単に名刺データを読み取って電子化するだけなら、市販の小型スキャナーを購入すれば自力でできる。リンクナレッジサービスは、1ユーザーID当たり毎月6500円(5ユーザーIDの場合)がかかるが、法人営業に向く機能が多数盛り込まれている。例えば、地図表示、企業ニュース表示、企業プレスリリース表示、名刺獲得件数の推移のグラフ表示、年商や業種など企業属性情報で分類したリスト表示の機能などだ。つまり、リンクナレッジは営業担当者の机に埋蔵されている名刺を電子化するだけでなく、多様な情報を閲覧・活用できるようにする簡易SFAツールや簡易CRMツールとして使えるようになっている。

 それだけに、「プライシング戦略にはかなりこだわっている」と話す三三の富岡圭取締役マーケティング&セールス担当によれば、同サービスは米セールスフォース・ドットコムの「セールスフォース」やソフトブレーンの「eセールスマネージャー」などSFAツールやCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)ツールを比較対象として、顧客に提案しているという。このサービスの将来性を高く評価したリクルートインキュベーションパートナーズ(東京都中央区)やサイバーエージェントなど3社が、三三に2009年6月に計5000万円を出資している。