独製薬大手の日本法人である日本ベーリンガーインゲルハイム(東京・品川)は、成熟した国内の医療用医薬品市場で2ケタの高成長を遂げている。トップダウンの営業改革を進めた一方で、「アクションラーニング」というボトムアップ手法も併用し、MR(医薬情報担当者)の問題解決力を高めた。

 「トップダウンの営業改革を進めてきて成果は出たが、MRの現場が評価指標に追われ続けるようになってしまった。ボトムアップの意識付けをする仕組みとして『アクションラーニング』の導入が不可欠だった」。日本ベーリンガーインゲルハイムの早川勝夫・事業企画本部能力開発部統括部長はこう話す。ベーリンガーは日本国内では大衆薬大手のエスエス製薬の親会社として知られる。2005年からバランス・スコアカード(BSC)を全社導入し、人材育成を核とした長期的な戦略実行に活用している。しかし早川統括部長は短期的な成果に追われ過ぎる状況を懸念していた。

日本での研究・開発を重視し、2008年11月に「神戸医薬研究所」を開設した
日本での研究・開発を重視し、2008年11月に「神戸医薬研究所」を開設した

 その背景として、同年に始めた「営業生産性プロジェクト」があった。MRの行動をKPI(キー・パフォーマンス・インジケーター=重要業績評価指標)に落とし込んで振り返るようにし、医師への「訪問の量」「訪問の質(効果的な訪問先の絞り込み)」「訪問時のインパクト」という3つの切り口で最適な行動を徹底させたのだ。米オラクルのSFA(セールス・フォース・オートメーション)パッケージソフト「シーベル」を導入し、詳細な営業プロセスに関するデータの収集・分析に取り組んだ。

 この成果もあって、医療費抑制による市場規模の微減という逆風のなか、ベーリンガーの2006年12月期の医療用医薬品の国内売上高は前年比17.3%という業界トップの伸びを記録した。競合が多いパーキンソン病治療剤が1.5倍に伸びたことが成長を後押しした。

 だが一見好調な社内で、KPIが伸び悩む部署もあった。「がんばっているのに数字がついてこない」という声が現場から出始めたのを見て取り、早川統括部長は「このままではすぐに改革疲れが出てしまい、成長を持続できない」と考えた。SFAによるMRのプロセス管理には競合他社も取り組んでいるので、それだけでは優位を維持できないという大局観からの課題も感じていた。

 そこでボトムアップ型の手法も取り入れてバランスを取ろうとし、2006年から「アクションラーニング」を導入した。アクションラーニングは、学問中心の教育方法に対する反省の気運から提唱された人材開発の方法論。現実の問題解決を進めながらリーダーを育成するものだ。

 ベーリンガーは、有力な研究者の一人であるマイケル・J・マーコード氏が完成させた人材開発プログラムを教えるラーニングデザインセンター(東京・港)の清宮普美代・代表取締役に研修を依頼した。清宮氏は「営業マネジャーが部下に細かな問題解決策まで提示するのでは荷が重すぎる。部下にとっても、上からの指示だけではやりがいにつながらない」とベーリンガーの課題をとらえた。