中日本エクシスが管理するサービスエリア内の商業施設にあるテナントの様子。今後は街中のショップと同等以上の接客レベルが求められる
中日本エクシスが管理するサービスエリア内の商業施設にあるテナントの様子。今後は街中のショップと同等以上の接客レベルが求められる
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 高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)にある飲食店や売店などの商業施設を管理する中日本エクシス(名古屋市)が、店舗の接客レベル向上に動き出した。2009年10月に1カ月かけて、同社としては初めてとなるロールプレイング形式の接客コンテストを開催。顧客満足度の向上につなげる。

 2009年3月から高速道路料金が週末に1000円で乗り放題になったことで、SAやPAにある商業施設の利用は増えている。中日本エクシスは商業施設に入居するレストランや土産物屋の運営を委託する100社以上の企業に対し、一定レベル以上の接客水準を求め、さらなる利用促進を目指す。接客コンテストはその起爆剤にしたい考えだ。

 中日本エクシスが管理するのは、東名高速道路をはじめ、中央や北陸、長野などの自動車道にある合計143カ所のSAとPA内の商業施設だ。この中に、大手企業や地場の企業が運営するテナントが集まっている。最近はファミリーマートやスターバックスコーヒーなどもテナントとして進出している。中日本エクシスは、2005年に日本道路公団が分割・民営化された際に誕生した民間会社、中日本高速道路(名古屋市)のグループ会社として2005年12月に設立された。

 当初から覆面調査(ミステリーショッパー)による店舗評価とテナントへの結果のフィードバックを続けてきた。だが、それだけだとテナントは他店との接客レベルの違いを体感しにくい。SAやPAは立地がそれぞれ独立しているので、他店を意識する機会が少ないからだ。そこで、「合計7000人に及ぶ店員の頂点を目指す接客コンテストを通じて他店の状況を知り、全体の接客レベルを底上げしようと考えた」(相澤剛・業務企画部業務支援チームサブリーダー)。

 接客コンテストはエリアを八王子、金沢、名古屋、東京・静岡の4つに分け、10月初旬から予選会を実施する。そして10月30日に東京で本選会を開く。コンテスト会場にはレストランと物販店の疑似店舗を設け、顧客役を相手に数分間の接客を実施。顧客のお迎えから商品説明、レジ案内、会計、お見送りまでの一連の動作を、好感度や対話力、販売力の観点で審査員が採点する。

 現在、150人以上の参加が見込まれており、20人ほどが本選会に進める。そして上位入賞者には賞金と賞品が贈られる。接客コンテストの運営では、接客指導を手掛けるワンスアラウンド(東京都世田谷区)に支援を要請した。

 SAやPAにあるレストランや物販店には、固有の接客術が求められる。例えば、レストランで注文を取ったり、料理を配膳したりする前後に、顧客から「この先の渋滞はどうなっていますか?」とか、「天気は大丈夫?」といった具合に道路状況について質問されることが多い。そこで店側は料理や土産物の商品知識を店員に教え込むだけでなく、その日の高速道路の状況を店員に随時知らせて、顧客にはいつでも伝えられるように情報共有している。こうした顧客からの質問に的確に答えられるかどうかも審査対象になる。

高速道路の無料化が店舗を潤すとは限らない

 高速道路を巡る最大の話題といえば、2009年8月末の衆議院議員選挙で大勝した民主党が政権公約に掲げる「高速道路の無料化」がいつ実現するかだ。民主党政権の誕生で、高速道路の無料化は数年以内に実施される可能性が高まった。それにより、高速道路の利用者が増えれば、中日本エクシスの経営にプラスになると考えられるが、事情はそう簡単ではないという。相澤サブリーダーは「無料化になったときのSAやPAでの利用者の消費行動はまだ読めない」と本音を明かす。

 無料になると利用者は高速道路を自由に乗り降りするようになり、高速道路を途中で降りて地元の商業施設で買い物をしたり、名物を出す飲食店などで食事を済ませたりしてから、再び高速道路に戻って先に進むようになるかもしれない。そうなると、「SAやPAでの飲食や物販が減ることも考えられる」と相澤サブリーダーは危惧する。しかも、無料化で高速道路が慢性的に渋滞するようになると、「先を急ぐ人はSAやPAを飛ばしていくかもしれない」(相澤サブリーダー)。このようにマイナス面の不確定要因は多い。

 現時点で確実に言えるのは、「地元の商業施設や飲食店と同等以上の接客をSAやPAで提供できなければ、今後は店舗が淘汰されていく」ということだ。中日本エクシスの危機意識は相当高い。今までのように「SAやPAには黙っていても顧客のほうから立ち寄っていってくれるという考えは通用しなくなる」(相澤サブリーダー)。

 中日本エクシスが2008年に接客コンテストの企画を立て始めたときにはまだ、高速道路の無料化が現実味を帯びていなかった。しかし、現在は1~2年以内に実施されることを前提に経営の舵取りをしていく必要がある。結果的に、今後は毎年実施する予定でいる接客コンテストの1回目が2009年10月に決まり、地元の店舗に負けない接客レベルの達成が全店の合言葉になっている。