日本酒ファンが集うSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)サイト「日本酒天国.com」が活況を呈している。開設から5カ月近くを経た2009年9月1日現在、会員数は2800人を超えた。2010年4月までに5000人の参加を目標に掲げる。

 運営するのは、日本酒卸大手の岡永(東京・中央)が本部を務める日本名門酒会だ。全国から120の蔵元、22の日本酒卸、1800の酒販店が参加し、良質な日本酒を消費者に届けるための活動を30年以上続けている団体である。日本酒と合う料理のレシピや、全国各地の酒販店が主催するイベント、美味しい酒が飲める店の紹介など様々な情報が流通する、日本酒ファンにとってまさに「天国」のような場になっている。

 日本酒天国.com開設の背景にあったのは、日本名門酒会関係者の危機感だった。同団体は毎年10月に「日本酒天国」と題した試飲会イベントを開催してきた。4000円という高額な入場料にもかかわらず、2000人分のチケットは発売当日に売り切れる。地方での日本酒関連イベントも盛況だという。にもかかわらず、日本酒の消費量は1975年以来、右肩下がりであり、ピーク時の4割に満たない。

 日本名門酒会本部長を務める、岡永の飯田永介代表取締役社長は「年々、消費の実態が見えにくくなっていた。毎年開催する日本酒天国に来てくれる2000人は、それ以外の364日はどのように日本酒を楽しんでくれているのか知りたくなった」と語る。そこで、コンサルティング会社のワールド・カフェ(東京・目黒)とループス・コミュニケーションズ(東京・渋谷)の協力を受けて、定例イベントと同名のSNSサイトを構築した。

 日本酒天国.comでは、レストランや日本酒に適した器などについてのコミュニティーが用意されており、参加者は自由にコメントを書き込める。卸や蔵元は参加者たちのやり取りから日本酒愛好者たちのこだわりを知ることができる。また、家庭内での日本酒消費を促すために「ウチ飲み」に関するアンケートを取ったり、「ウチ飲み純米酒シリーズ」として5つの商品を一升瓶と四号瓶で発売したりした。同シリーズはそれぞれ最初の1カ月間で5000本以上、7000本以上を売り上げた。通常の3倍を超える販売スピードだという。2009年10月には会員がサイトで日本酒を注文して、最寄りの酒販店で受け取れる仕組みを作る。蔵元や卸の情報収集や会員同士の交流だけでなく、直接的な消費にもつなげたい考えだ。

 飯田社長は「参加者同士のやり取りから消費の実態を感覚的につかめたらと考えている。日本酒を飲む楽しみを広めたい」と語る。飯田社長の父である、日本名門酒会最高顧問の飯田博代表取締役会長は「飯田兄弟」の長男だ。次男の故・飯田保氏は居酒屋チェーン「天狗」を運営するテンアライド元社長、三男の飯田勧氏はスーパーマーケット運営のオーケー社長、五男の飯田亮氏はセコム取締役最高顧問。著名経営者を次々と輩出した創業125年の日本酒卸は、市場の活性化に意欲を見せている。