サッポロビールは2009年3月から、「レトロな雰囲気とモダンな雰囲気が共存する」と判断した商店街を集中的に攻めるユニークなマーケティング戦略を展開し始め、焼酎「トライアングルスムース」の売り上げを向上させている。同商品の月間販売量は、開始直前の2月を1とすると、6月に5倍になった。9月以降は6倍を目指すという。

写真1●「ジンジャーハイボール」の黄色い提灯で埋め尽くされた吉祥寺のハモニカ横丁
写真1●「ジンジャーハイボール」の黄色い提灯で埋め尽くされた吉祥寺のハモニカ横丁
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 例えば、数十メートル四方の狭いエリアに密集する数十軒の飲食店に対して、同商品を炭酸で割って作る「ジンジャーハイボール」をメニューに加えるよう依頼。それと同時に、採用店舗の軒先には宣伝用の黄色い提灯を掲げてもらう。そのエリア内の通りを黄色に染め、消費者の注意を喚起することに成功した。

 トライアングルスムースは、キッコーマンが1984年に発売した黒いビンの焼酎「トライアングル」の兄弟商品。トライアングルは俳優の故・松田優作氏のテレビCMなどによって一世を風靡したことがある。サッポロビールは2006年にキッコーマンから焼酎事業を引き継ぎ、てこ入れのためにトライアングルスムースを2008年5月に発売した。しかし発売開始から2009年2月までは、ジンジャー入りという特性を訴求しきれず、売り上げが伸び悩んでいた。

写真2●サッポロビールの富岡良之マーケティング本部焼酎戦略部ブランドグループシニアマネージャー
写真2●サッポロビールの富岡良之マーケティング本部焼酎戦略部ブランドグループシニアマネージャー
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 今回の戦略はトライアングルスムースのマーケティング担当者である富岡良之マーケティング本部焼酎戦略部ブランドグループシニアマネージャーが考案した。狭いエリアに人材や資金などのリソースを集中させることで、特定エリア内で高いシェアを獲得し、強固な地盤を築こうとする「ランチェスター戦略」と発想を同じくする。「狭い場所に並ぶ10軒すべてに黄色い提灯があったほうが、10軒を点在させるよりも、見える力が強い」と富岡シニアマネージャーは語る。このランチェスター型のマーケティング戦略を、東京都武蔵野市の吉祥寺駅前にあるハモニカ横丁で3月から実践し、8月中旬までに約50軒の協力を得た。さらに約80軒ものもんじゃ屋が連なる東京都中央区の月島でも7月から実践し、約60軒に採用された。第3のレトロモダンな商店街も都内で攻略中である。

 富岡シニアマネージャーがコアターゲットに想定しているのは30代女性だ。この層からの直接の口コミや、ブログによる口コミを起点にして、30~50代男性への浸透も狙う。「昨年から女性を中心にジンジャー(生姜)が入った様々な商品が徐々にヒットしてきている。人と人の距離が近かった昭和のレトロな雰囲気を持つ映画などのヒットも目立つ。流行のジンジャーというモダンさと、レトロなイメージがあるハイボールを組み合わせ、そのイメージに適した街で普及させれば、口コミの伝播を期待できると考えた」と狙いを話す。

 ジンジャー入りのトライアングルスムースを炭酸で割った飲み物を「ジンジャーハイボール」と名づけたのも富岡シニアマネージャーだ。軽い飲み口のジンジャーハイボールは「食事に合うハイボール」であることを売りにしている。そのため、個々の飲食店の食事や客層に合わせたレシピを作ることも富岡シニアマネージャーは勧めている。カットしたレモンやライム、スライスした生姜を加えたり、炭酸の代わりにジンジャーソーダで割ったりするなどだ。消費者に「あの店のジンジャーハイボールはどうなんだろう」というワクワク感を提供する狙いもある。