イオン系のドラッグストア大手、ウエルシア関東(さいたま市)は携帯サイトを活用して4万人の顧客会員に定期的にアンケートを実施。回答者に店頭で景品を提供するなどの施策を組み合わせて来店を促進し、広告掲載商品の月間売り上げを平均20%高める成果を上げている。

 多数の競合がひしめくドラッグストア・チェーンにとって、競合他社に浮気しない優良顧客の確保は、安定して利益を稼ぐ必須条件といえる。いかに顧客と良好な関係を築くかに、各社は工夫を凝らしている。

 埼玉県を中心に関東甲信越地方で300店以上のチェーンを展開するウエルシア関東は、携帯サイトを優良顧客を確保する手段に位置付ける。インターネット事業の子会社であるe welcia ヤマト(埼玉県川口市)が運営する携帯サイト「ウエルシアのe情報」を活用し、店舗に訪れる顧客を対象にした会員サービスを2006年から展開している。

 サービス開始から3年弱で4万人以上の顧客会員を集め、現在も毎月約1000人の新規会員を獲得している。会員の8割は女性で、その大半を30~40代が占める。同社の主力顧客層とも合致する。

 携帯サイトを活用した会員サービスを実施する企業はほかにもあるが、ウエルシアのサービスには他社ではほとんど見られない特徴がある。会員にアンケートを実施して双方向のコミュニケーションを取りながら、来店を促していることだ。

 具体的には、携帯サイトを顧客の声を聞ける場として取引先のメーカーに提供。顧客会員には週に1回、商品広告を兼ねた電子メールを配信し、アンケートを実施していることを告知する。アンケートに回答した顧客会員には、ウエルシアの店舗で利用できるポイントを付与する。メーカーが景品を用意している場合は、来店時に店頭で手渡す。

 e welcia ヤマトの和田大作取締役事業開発部長は「メーカーと一体になって顧客の来店を促すモデル」と説明する。実際に店舗の売り上げ増にも貢献している。電子メールの配信から1カ月間のPOS(販売時点情報管理)データを見ると、広告掲載商品の販売数量が平均20%増加しているのだ。

●携帯サイトで顧客会員を組織して販売促進に活用
●携帯サイトで顧客会員を組織して販売促進に活用
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 ウエルシア関東は2008年2月期に3割超の増益を達成した。2009年2月期も、2008年11月まで既存店売上高が前年同月比を上回り続けるなど業績は堅調だ。携帯サイトを活用した販促が好業績の一端を担っているのは間違いない。

会員限定のメール配信で広告効果を明確化

 会員サービスを実施する以前のウエルシア関東は、主に大量の広告チラシやはがきなどを配布して顧客の来店を促していた。1店舗につき1万枚のチラシを配布するとすれば、300万枚に上るため、相応にコストがかさむ。

 投資の効果を高めるため、チラシで販促をかけるタイミングでは、取引先のメーカーにも販促への協力を依頼してきた。しかし、メーカー側は必ずしもチラシによる販促を歓迎していなかった。大きく2つの課題があるためだ。

 1つは、費用対効果が不明確なこと。チラシによってどの程度、来店者数が増えたかが分からない。来店しない顧客にも配布することになるため、メーカーから見れば効率が悪く映る。

 もう1つの課題は、チラシでは商品の特徴を顧客に伝えにくいことだ。ウエルシア関東と取引している明治製菓の上田竜大・健康事業首都圏支店首都圏第三営業所所長代理は「チラシでは商品の特徴よりも値段に顧客の注目が集まりやすい」と指摘する。顧客が価格重視になると、競合他社のチラシと比較して値付けが安いほうに流れやすくなり、ウエルシア関東にとっても都合が悪い。

 2つの課題を克服する方法として、e welcia ヤマトの和田取締役は携帯サイトの会員サービスを発案した。来店客に会員になってもらい、来店を促す情報をメールで配信する。販促をかけた相手が見えるため、店頭の売り上げデータと関連付けしやすくなり、費用対効果が測りやすい。

 メーカーが希望する商品の説明もしやすくなる。携帯サイトや電子メールは文字量に制約があるものの、多数の商品を載せる広告チラシよりは一般にスペースの自由度が高いからだ。

 このアイデアを機能させるには、顧客が携帯サイトを積極的に活用することが前提となる。利用促進策としては、店頭で利用できる割引クーポンを携帯サイトで発行することがすぐに思いつく。だが、ウエルシア関東の鈴木孝之代表取締役会長兼社長は「割引クーポンに頼って集客すると利益率が下がる」と同意しなかった。

景品を店頭で手渡し、顧客の来店を促す

 和田取締役は代替案に頭を悩ませたが、「メーカーにアンケートやクイズの実施を持ちかけ、顧客が回答する場として携帯サイトを活用する」「回答の対価として商品サンプルなどの景品を用意して店頭で手渡す」というアイデアをひねり出した。景品付きのアンケートやクイズなら、顧客が進んで回答する可能性は十分にある。さらに景品を店頭で手渡して顧客の来店を促進すれば、店舗の売り上げ増加も期待できる。景品をメーカーに用意してもらえば、ウエルシア側の負担はほとんどない。

 このモデルを取引先のメーカーに売り込む前に、ウエルシアは自ら顧客にアンケートを実施した。すると、詳細な書き込みをしてくれる会員が多かったうえ、景品を受け取るために90%以上の回答者が来店するという良好な結果が得られた。

 これに手応えを得た同社は、メーカーへの売り込みを開始した。ウエルシア関東のバイヤーが取引先の営業担当者に携帯サイトを紹介し、詳細をe welcia ヤマトの和田取締役が説明した。当初は効果を疑問視する担当者が大半だったが、携帯やネットへの理解がある担当者もいた。こうした担当者を見つけると、「1万円程度のお試し価格を提示して、アンケートを取ってくれませんかとお願いして回った」(和田取締役)。少しずつながら、試してくれるメーカーが現れるようになったという。

 「お試し」のアンケートを実施したメーカーの担当者は一様に驚いた。アンケートを告知するメールの配信数に対する回答率が20%前後に上り、瞬く間に数千通の顧客の声が集まったからだ。商品モニター形式の場合は、モニターに選ばれた顧客の回答率は9割前後に達する。顧客へのアンケート調査としては驚異的といえる。

想定の10倍の意見が集まり売り上げも増加

 効果が伝わるにつれて、アンケートを要望するメーカーの数は着実に増えてきた。現在は携帯サイトへの広告掲載料に10万円、複数メーカーが共同で広告をメール配信する場合で4万円(いずれも税抜き)を設定している。それでも共同広告型のメールには、安定して協賛するメーカーがある。

 その1社であるクラシエホームプロダクツ販売(東京・港)の森栄一・関越支店営業第二課係長は「実際の店舗と結び付いた顧客の声を聞けることが貴重だ」とウエルシアの携帯サイトを評価する。

 メーカーが自社サイトで会員サービスを運営して顧客会員の声を収集しても、販促キャンペーンなどの有効性を売り場で検証するのは難しい。その点、ウエルシアの携帯サイトであれば、販促効果が店舗の売り上げとなって見えるため、仮説を検証するのにもってこいというわけだ。

 森係長は2006年以降、新商品などの販促キャンペーンを展開する際に、ウエルシアのサイトでもプレゼント提供などの販促を実施している。500人の募集に対し、1万件前後の応募が集まるという。

 明治製菓もウエルシアの顧客会員へのアンケートを効果的に販促につなげた1社だ。2008年8月、健康食品「アミノコラーゲン」の販促の一環でアミノコラーゲンを使った料理レシピを募集した。

●明治製菓「アミノコラーゲン」での携帯サイト活用の流れ
●明治製菓「アミノコラーゲン」での携帯サイト活用の流れ

 明治製菓の上田所長代理は、顧客が「健康食品は医薬品と同様に我慢して摂取するもの」という意識を抱いていると認識していた。この意識を払しょくするには、おいしい料理と一緒に摂取してもらえばよいのではないかと考えた。そこで顧客にレシピを募集したところ、1カ月で300件が集まった。「予想の10倍以上も集まった」と上田所長代理は驚きを隠さない。

 ウエルシア店舗での商品の販売数量も伸びた。アンケートを告知するメールを配信してから1週間の販売数量は、前の週の約2倍を記録。1カ月間でも2割の売り上げ増の効果があった。効果に満足した明治製菓は同年11月にも携帯サイトを活用。収集したレシピに関するクイズを実施した。今後もアミノコラーゲンの販促のため、ウエルシアのサイトを継続的に活用する方針だ。

自社サービスにも顧客の声を反映

 メーカーが驚く顧客会員のモチベーションの高さは、ウエルシアの地道な活動によって保たれている。和田取締役は主に3つの点に気を配っていると明かす。

 1つは一方的な情報発信を控えることだ。当初こそ広告情報だけを記載したメールも配信していたが、現在はアンケートなど、会員が主体的に参加できる内容を含めることをメーカーに要請している。アンケートの内容もメーカーと相談しながら、ワンパターンにならないように努めている。

 2つめは、自社サービスにも顧客の声を生かすことだ。半年に1回の頻度でアンケートを実施して、寄せられた顧客の声を売り場や携帯サイトの使い勝手の改善に役立てている。「店頭では面と向かって言いにくい不満を、携帯サイトに寄せてくる顧客もいる」(和田取締役)。こうした声に応えて売り場を改善すると、顧客は高く評価するという。携帯サイトのサービスも、男性用化粧品の商品情報を充実させたり、景品の種類に幅を持たせたりするなど、寄せられた声を参考にしている。

 3つめの取り組みは、顧客会員の獲得とその後のサポートをする場として店舗を活用すること。携帯サイトの会員を募集すること自体や、アンケートの景品を手渡す機会が、店員と顧客がコミュニケーションを取るきっかけになる。こうした接触を通じて、顧客のロイヤルティー向上を期待している。

●顧客会員との結び付きを高めるポイント
●顧客会員との結び付きを高めるポイント