写真●「ヤマサ 鮮度の一滴 特選しょうゆ 500mlパウチ」を手にするヤマサ醤油営業本部マーケティング部の藤村功MD推進室長
写真●「ヤマサ 鮮度の一滴 特選しょうゆ 500mlパウチ」を手にするヤマサ醤油営業本部マーケティング部の藤村功MD推進室長
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 ヤマサ醤油(千葉県銚子市)が新手法を導入して新商品の販売促進に取り組んでいる。同社は2009年8月24日に「ヤマサ 鮮度の一滴 特選しょうゆ 500mlパウチ」を発売する。発売に先駆けて7月24日から、同商品をアピールするためのコミュニティーサイトを公開した。会員登録した消費者は、関連情報を入手したりコメントを書き込んだりできる。登録数は、8月17日現在でおよそ1000人に上り、当初の予定通りのペースで順調に増えているという。

 このコミュニティーサイトを構築するに当たり、同社が初めて導入したマーケティング手法がペルソナの活用だ。ペルソナとは、定量的・定性的な情報を活用して作り上げた架空の顧客像を指す。今回は主要な顧客層である30代女性のペルソナを作った。ペルソナにつけられた名前は「本田智子」。化粧品会社で広報として働く37歳という設定だ。「夫と中目黒の分譲マンションに住んでいる」といった細かなプロフィールも用意した。

 ペルソナの構築はワールド・カフェ(東京都目黒区)が請け負い、コミュニティーサイトの構築はループス・コミュニケーションズ(東京都渋谷区)が請け負った。ネット上の様々なブログをテキストマイニングして、味や匂いに敏感な30~40代女性を主要な顧客と定め、30代の女性10人にインタビューを実施したうえでペルソナを作ったという。

 そして、この本田智子という顧客像を鮮明に思い描きつつ、顧客が真に望んでいる価値(インサイト)を提供するコミュニティーサイトを検討した。そうすると、顧客の心に響く価値を提供する手がかりとして、「『さびない私』で、自分たちらしい生活を夫婦でエンジョイしたい」というキーインサイトが得られたという。そこで、「サビテナイ?」と題した宣伝動画を制作して、コミュニティーサイト上で公開している。「さびてない」はサイトだけでなくブランディング全体に共通したキーワードにもなっている。

 ペルソナを作ってまでヤマサがコミュニティーサイト構築を念入りに行ったのには理由がある。鮮度の一滴がこれまでとは大きく異なったコンセプトを備える商品だからだ。通常、醤油は開封後1カ月で色が濃くなり風味も劣化する。しかし、同社によると醤油の消費量は年々減少しており、一般的な家庭では1リットルパックを使い切るのに平均で1カ月半かかる。営業本部マーケティング部の藤村功MD推進室長は「商品回転の早い寿司屋では当社の醤油は新鮮なままで赤味がかっているが、家庭では同じ商品でもどうしても黒っぽくなったまま使われていた」と話す。

 「家庭でも新鮮な醤油を使ってもらいたい」という藤村室長の問題意識から企画された鮮度の一滴の特徴は、注ぎ口部分に付けられた特製のフィルムが逆止弁の役割を果たすことだ。醤油を注ぎだす際に空気が入らず、開封後もほぼ真空状態を保てるので、開封後70日たっても醤油が劣化しない。

 醤油という商材で、鮮度を差別化のポイントにしたメーカーはこれまでに無かった。ほかの分野ではキリンビールが「のどごし」を販促するに当たって、「鮮度」が商品を選ぶ際の条件になるよう継続的に情報を発信し続けたといった例はある。ヤマサは醤油でそれと同様な活動をしていかなければならない。そこで商品コンセプトも含め、醤油の鮮度について消費者に情報発信し続ける場として今回のコミュニティーサイトを構築した。

 今後は実際に商品を使った消費者からの書き込みが、クチコミ効果を生むだろうと期待を寄せている。同社は7月にモニター500人に商品を発送した。自宅の醤油と比べた感想などがモニターの手で同サイトのコメント欄に書き込まれる見通しだ。同社は8月24日の発売後も、同サイトを各種キャンペーンのプラットフォームとして活用していく。