写真●サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事本部長
写真●サイバーエージェントの曽山哲人取締役人事本部長
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 ネット広告代理事業などを手がけるサイバーエージェントが、社員の生産性を向上させる活動「棚おろし会議」を2009年1月から実施して成果を上げつつある。同年7月末までに計10部署の50~60人がこの活動に取り組んだ。1日平均2~3時間も残業が減った社員もいるという。

 2004年9月期の連結売上高267億円から、2009年9月期には970億円を見込むまでに急拡大してきた同社では、残業が長い部署が目立ってきた。みなし残業制度を採用していることもあるが、会社規模が大きくなるのに伴って、社内で重複しているなど非効率的な業務が増えていることも理由の1つという。

 そこで2009年1月に開始した棚おろし会議は、個々の部署にとっての「コア業務(その部署全体の成果に直結する業務)」と「ベース業務」に区分けしてから、ベース業務に割く業務時間を短縮しようというものだ。活動のスローガンとして「成果MAXで帰りMAX!」を掲げている。

 棚おろし会議は1回2時間を目途として、毎月1回、3カ月連続で実施する。まず活動実施部署の各人が現在担当している業務を雑務も含めてすべて付せん紙に書き出す。そしてどれがコア業務なのか議論する。まさに「棚卸し」である。何がコア業務なのかは、マネジャーとメンバーの間で認識が食い違うことが少なくない。この作業でマネジャーが気づかなかった雑務も浮かび上がる。

 コア業務とベース業務を区分けしたら、ベース業務をもう一段深く棚卸しする。まず「止めてしまうべき業務」を決め、次に「減らす業務」を決める。例えば無駄なミーティングを無くしたり、ミーティングの時間を短くしたりする。さらに、「アシスタントや外部に移管できる業務」、「マニュアル化して標準作業時間を決めるべき業務」、「より多くの人数で取り組んで短時間で終えられるようにすべき業務」などに区分けしていく。

「コア業務」の完遂と、予定時間での帰宅を毎日自己採点

 同会議と並行して、活動実施部署のメンバーは毎日、「天気図シート」に活動成果を記録する。このツールは、「自分が1日に実行しようと決めたコア業務をやり遂げたかどうか」と、「自分で狙った時間に帰れたかどうか」の2項目をそれぞれ5点満点で自己採点するというもの。前者を「成果」、後者を「帰り」と呼び、天候になぞらえて、5点なら「晴れ」、4点なら「曇り後晴れ」、3点なら「曇り」、2点なら「雨」、1点なら「大雨」を表す記号を天気図シートに記録していく。

 人事給与労務チームは、社内で先駆けて棚おろし会議を実践した。活動開始1カ月後時点での同チームの5人の社員の平均点は「成果」が3.9点、「帰り」が3.3点だった。これが3カ月後にはそれぞれ4.8点、4.3点に上昇した。1週間ごとに、個人単位とチーム単位で何個の「晴れ(5点)」を獲得できるか目標と結果を見ながら、上司は各メンバーに業務の優先順位などを助言した。

 2008年秋のリーマンショック以降、「残業を減らそう」とスローガンを掲げる企業は少なくない。だが、「大切なお客様へのプレゼンテーションを明日に控えているような時に、『残業をするな』と上から言われると、社員の気持ちが冷めかねない」と、同社取締役の曽山哲人人事本部長は警告する。やらされ感や押しつけ感が生じないような残業減らしの仕組みとして曽山本部長は棚おろし会議を考案した。業務時間を減らす対象はあくまでベース業務のほうだとしたうえで、「狙った時間に帰れるようにしよう」と主体的な取り組みを引きだしている点が、同社の活動の特徴である。