写真1●東レの「荷資材回収支援システム」の画面。<br>顧客別・荷資材の種類別に回収率を一目で把握できる
写真1●東レの「荷資材回収支援システム」の画面。
顧客別・荷資材の種類別に回収率を一目で把握できる
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 東レは2010年3月末までに、顧客への製品輸送に使った資材の回収状況を可視化できる「荷資材回収支援システム」を全社で稼働させる。荷資材の回収・再利用を促してコスト削減につなげるのが狙いだ。既に2008年4月からフィルム製品の荷資材を対象に同システムが稼働しており、年間20億円以上のコスト削減効果を上げた。今後、繊維などほかの製品分野にも展開し、コスト削減を加速させる方針だ。システム投資額は約3000万円。

 東レのフィルム製品は、菓子の包装やビデオテープ、液晶パネルなどの材料として幅広く使われている。東レの工場から出荷する時は、「プラコア」と呼ぶ芯にフィルムをロール状に巻き、鉄製の「スチールコンテナ」に載せた状態で出荷される。プラコアは1個1万円以上、スチールコンテナも5万~10万円と高額なので、東レは顧客企業からフィルム利用後、返却してもらうことを原則としている。回収した資材は再利用(リユース)する。

 しかし、従来は回収状況を追跡する仕組みが無かったため、顧客企業が自社で保管したり、廃棄処分したりすることが少なくなかった。回収できた場合も、紙の伝票類の集計が行き届かず、回収状況を正確に把握できていなかった。

高額資材を返却しない顧客の存在に気づく

写真2●東レの荷資材回収施策を担当した物流部物流第2課の矢野茂課長代理
写真2●東レの荷資材回収施策を担当した物流部物流第2課の矢野茂課長代理
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 システム構築を担当した物流部物流第2課の矢野茂課長代理は「従来は製品の物流効率化にばかり目が行き、荷資材の回収がおろそかになっていた」と話す。矢野課長代理がシステム構築前に一部の顧客企業について試験的にプラコア回収率を調べたところ、0%という企業があった。理由を問い合わせると「返却することを知らなかったので自社で使わせてもらっている」という答えが返ってきた。これでは、東レにとってはコスト負担が大きい。

 新システムを使えば、顧客企業からの回収を担当する回収店が入力した顧客別・荷資材別の回収数と、既存の販売管理システムから引き出した販売数を照合し、回収率を自動算出できる。回収率が低い顧客企業を特定して、回収を促す取り組みを進めてきた。

 これによって、プラコアやスチールコンテナの平均回収率は従来の90%弱から98%程度まで向上。回収数が増えた分、20億円以上の荷資材を新たに購入しなくて済むようになった。その分回収費用自体は増加したが、回収率増加によるメリットがはるかに大きいという。荷資材の新規購入や廃棄が減る分、環境負荷低減にもつながる。

 今後、ボビン(繊維を巻く金属製の芯)や木製のパレットなど比較的安価な荷資材の回収も強化し、さらにコスト削減効果を高めていく方針だ。荷資材のサイズなどの仕様統一も進め、再利用しやすくする施策も推進している。

 製品輸送を「動脈物流」と呼ぶのと対比して、再利用可能な製品・荷資材の回収を目的とした輸送を「静脈物流」と呼ぶことがある。静脈物流には地道な取り組みが必要だが、企業が一段のコスト削減や環境負荷低減を迫られるなかで、今回の東レのような取り組みが広がっていく可能性は高い。