東京・新宿に本店を構え、和洋菓子の製造や飲食業を手がける中村屋が2005年度から続けてきたSCM(サプライチェーン・マネジメント)改革で継続的に効果を上げている。同年に発足したSCM推進室が中心となって物流改善を進め、2006年度から2008年度までの過去3年はSCM関連で毎年約1億円ずつのコスト削減を達成した。2009年度も同様の効果を見込む。

 SCM改革の中核となるのは、売り上げの約60%を占める菓子事業における無在庫化の推進だ。中村屋の主力商品である中華まんなどの生菓子はもともと保存がきかず、在庫できない商品なので在庫が無い。受注後に生産して即時配送している。一方、月餅などの焼き菓子や米菓は日持ちするため、これまでは1週間分ほどの在庫を持っていた。

 こうした日持ちする菓子の在庫も生菓子と同様に無在庫に近づけるのがSCM改革の最終目標だ。中村屋は2007年に、独SAPのERP(統合基幹業務)パッケージソフトを使った生産管理や販売管理などの基幹システムを導入済み。そのシステムを使って、曜日ごとに異なる納品量を分析し直すなど、在庫削減を進めてきた。既に月餅などの焼き菓子は無在庫になり、トータルでは数日分の在庫を既に減らした。

在庫がゼロになれば、外部委託に踏み切れる

 SCM推進室は首都圏の4カ所に点在する営業所(物流拠点)単位で在庫をゼロにしてきており、無在庫化にメドが立った拠点から順次、運営をこれまでの自前から外部委託に切り替え、コスト削減につなげている。

 中村屋は現在、東京・渋谷にある中央営業所のほか、首都圏に北・東・南の3つの営業所を抱える。既に北と東は無在庫に転換して在庫管理の必要がなくなったので、運営を外部委託に変えた。運営をアウトソーシングすれば、「物量の増減に合わせて外部人員の投入数を変えていけるので運営費を圧縮できる」(内田弘幸・SCM推進室長)。近い将来、ほかの営業所も運営の外部委託を進める計画を持っている。

 SCM推進室は営業所の運営をアウトソーシングする以外に、各営業所から納品先までの配送ルートの見直しによるトラック台数の削減や、地方の営業所を含む拠点間便の見直しで、毎年数千万円のコスト削減を続けている。納品先の店は新規出店と閉店でどんどん変動していくので、「トラックを1台減らせるだけで年間数百万円のコストを減らせる」(内田室長)。毎年社員がトラックに同乗し、配送ルートの見直しをかけている。

 地方の営業所向けの物流はこれまでよりも配送頻度を増やし、作りたての商品を供給しながら無在庫化を加速させる。2009年9月には福岡営業所への配送をこれまでの週2回から週6回に引き上げるほか、2010年中に名古屋営業所への配送も週3回から週6回に変更する予定である。配送頻度を増やせば、それだけ配送費は上昇するが、複数の営業所を経由する混載便を走らせることで配送費の増加を抑えていく方針だ。