写真●<br>2009年6月11日に実施した1回目の販売塾。座学とディスカッションを繰り返す。参加者の90%以上が若い女性店員だ
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2009年6月11日に実施した1回目の販売塾。座学とディスカッションを繰り返す。参加者の90%以上が若い女性店員だ
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 ファッションビルを運営するパルコは外部からクレーム対応のプロを招き、テナントの店員向けに接客教育を強化している。旗艦店の1つである池袋パルコ(東京都豊島区)は2009年5月から、接客やクレーム対応に詳しいワンスアラウンド(東京都世田谷区)と組んで「ショップスタッフ研修」を開始した。同店では向こう1年で合計6回の開催を予定している。テナント店長に特化した「店長塾」を4回と、店員なら誰でも参加できる「販売塾」を2回開く計画だ。

 2009年6月11日に実施した1回目の販売塾には、約100人の店員が出席した。会場は営業途中に抜け出してきた店員で満員になった。参加者の90%以上が若い女性店員だ。この規模はこれまでパルコが実施した研修の参加人数を大きく上回る。従来は多忙を理由に参加を見送られるケースが多かったが、クレーム対応という店員の頭痛の種である課題について、大手アパレルの店長などが設立したワンスアラウンドの女性講師が語るという内容が人気を呼んだ。

 2007年度までは研修1回当たりの参加者は多くて50人ほどだったのに対して、今回の参加者数は倍増した。池袋パルコには約200の衣料品店や雑貨店が入居しており、合計で約2000人の店員が働いている。この第1回で全店員の20人に1人が参加した勘定だ。

 今回の研修内容は、事前に研修ニーズをテナントにアンケートしたうえで決めた。要望が多かったのが「クレーム対応」だった。事実、池袋パルコが前年の2008年度にやはりワンスアラウンドと組んで研修を5回試行した時も、クレーム対応の研修が好評だった。そこで今回も同じ人に講師を頼み、年間の開催回数は前年より1回増やした。

 今回のショップスタッフ研修を企画したパルコ池袋店営業課の太田江美氏は「人気店だけに、当館に直接来るクレームだけで月10件以上ある。実際は各テナントも個別にクレームを受けるのでもっと多い。一度研修で基礎を学んでおくだけでも、応対時の言い方が変わるので、接客レベルの向上に役立ててほしい」と語る。今回の研修費用はパルコが負担しているので、テナントのメリットは大きい。

クレーム対応の「4原則」を説く

 クレーム対応の講師を務めたワンスアラウンドの佐藤梨枝子ディレクターは、アパレル店で店長を務めた経験を持つ。その佐藤ディレクターは研修の冒頭で「商品やサービスに不満を抱いたお客様の96%は不満を口にしません。クレームを言うのは残りの4%のお客様だけです。96%のお客様は不満を抱えたまま、2度と来店しなくなるだけなのです」と説明した。

 「なるほど」とうなずく参加者たち。佐藤ディレクターは続けて「4%のお客様は勇気を振り絞って不満を口に出してくれたのですから、誠意を持って応対してください。クレーム対応は接客の一部です」と強調した。

 その後、参加者が4人1組になって、顧客として自分自身の買い物での不満体験を話し合った。誰しも思い当たる話題なので、大いに盛り上がる。そうすると、不満の多くは「店員の接客マナー」に起因していることが分かった。すかさず佐藤ディレクターは「話し方や姿勢、応対態度といった接客クレームをまずはゼロにしましょう」と訴えた。

 そして佐藤ディレクターはクレーム対応の4原則を教えた。「謝罪」「聴く」「代替案・解決案の提示」「もう1度謝罪」だ。

 クレーム対応はファーストコンタクトが肝心だ。まずは顧客の主張を受け入れる態度を言葉と動作・表情で示す。そして、顧客の話を最後まで黙って聴く。途中で反論しないほうがいい。おびえる必要もない。最後まで話してもらい、怒りのマグマを出し尽くしてもらう。メモを取りながら話を聴くのがコツだ。

 一通り聞き終わり、事実確認が済んだら、ここで初めて、同一商品または類似品との交換や取り寄せ、返金などを提案する。ここでのポイントは複数の選択肢を用意し、顧客に選んでもらうことだ。そして、最後にもう1度謝罪する。

 研修の後半では「こんなとき、どうする?」と題して、参加者同士が意見を交換した。例えば、「タグもレシートも無い半年前の商品を『傷物だ』と言って返品に来られたお客様への対応」だ。こうした事例に対応するルールが会社にあるかどうかを各テナントの参加者が情報交換することで、他店のクレーム対応状況を知ることができる。この点も参加者から好評だった。会社のルールが無いときは、店舗でどう対応するかも話し合った。
 
 こうして2時間の研修はあっという間に終了した。