ファミリーマートは2005年から取り組んできたブランド浸透活動、通称「らしさ活動」を2009年度から加盟店にも拡大する。2009年4月から7月にかけて、「加盟店ワークショップ」を全国で開催しながら、加盟店のオーナーやマネジャー、アルバイトスタッフに参加を働きかけていく。合計150回開催し、4000人弱の参加を見込むこのワークショップでは、接客時に感動した体験などを語り合ってもらう。「気軽に心の豊かさを」というファミリーマートのブランドステ-トメントとの接点に自ら気づけるよう促すことによって求心力を高め、店舗でのサービス向上につなげる狙いだ。

 「らしさ活動」は、「気軽に心の豊かさを」という同社のブランドステートメントを、全社の様々な部門で実現していくことを目指して2005年にスタートした。活動開始当時は、全部門から選ばれた60人の「らしさリーダー」が、商品開発や店舗指導、店舗開発、物流などの部門で話し合いの場を持ち、「ファミリーマートらしさ」を実現するアクションプランを作った。

 2008年には、1日を費やしてブランドについて考える「らしさDAY」を本社や地域の営業部門ごとに開催し、全社員が参加した。これをさらに拡大したのが、現在進行中の「加盟店ワークショップ」だ。2009年6月中旬に開催された新横浜営業所主催のワークショップには、同営業所の管轄地域内にある20店舗から、オーナーやアルバイトスタッフなど40人が参加した。

屋外のインタビューで、仕事への思いを語り合う

写真1●<br>2人1組で行うハイポイント・インタビュー。会場の日産スタジアムの外に出て話を聞き合う組も。
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2人1組で行うハイポイント・インタビュー。会場の日産スタジアムの外に出て話を聞き合う組も。
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 午後1時から始まったワークショップは、参加者が2人1組で行う「ハイポイント・インタビュー」をまず行った。「なぜファミリーマートで働き始めたか」「仕事上で最も感動したり、働きがいを感じた体験は何か」「自分が仕事上で大事にしていることは何か」「将来自分の店がどんな風になったらいいと思うか」「そのために自分は何ができるか」といった質問を片方が出して、片方が回答する。時間は1人当たり40分をかけた。このインタビューを通じて、参加者各人が自分の経験とファミリーマートのブランドステートメントとの接点に気づくようにした。

写真2●<br>インタビューの内容を要約してチームで共有する。初対面の参加者同士が親しみを深める
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インタビューの内容を要約してチームで共有する。初対面の参加者同士が親しみを深める
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 リラックスした環境で思いを率直に吐き出し、相手との心理的な距離を縮められるように、場所にも気を配っている。新横浜営業所のワークショップでは、参加者が会議室から出て、屋外や施設内のカフェなど、様々な場所でインタビューを行った。インタビューが終わると、6人ずつグループを作って、それぞれがインタビューした内容をほかのメンバーと共有した。「私がインタビューした○△店長は、お客様が持ち込んだ宅配便の荷物を少しでも料金が安くなるように小さく梱包しなおすことで、お客様に喜ばれているそうです」「私がインタビューした○△さんは、お客様の名前をできるだけ覚えて呼びかけるようにしていたところ、お客様から『名前を覚えてくれてありがとう』と感謝されたそうです」――。こうした実体験の共有を通じて、「気軽に心の豊かさを」というブランドステートメントが、理屈ではなく直感的に理解できるようになっていく。

オブジェ作りでイメージを共有

写真3●<br>「ファミリーマートらしさ」のイメージをオブジェで表現。あれこれとアイデアがわきあがる
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「ファミリーマートらしさ」のイメージをオブジェで表現。あれこれとアイデアがわきあがる
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写真4●<br>自分のアクションプランを宣言すると、チームのメンバーから激励のメッセージが寄せられる
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自分のアクションプランを宣言すると、チームのメンバーから激励のメッセージが寄せられる
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 続いて「ファミリーマートらしさ」を表現するオブジェを模造紙や風船などを使って制作してもらった。手を動かしてオブジェを作るプロセスを通じて右脳を刺激し、「ファミマらしさ」というイメージを、理屈ではなく直感的に共有できるよう促していく。

 最後は「らしさ」を実現するために一人ひとりのアクションプランの策定フェーズに入る。参加者は、「お客さまの期待を超えよう」「仲間を信じ、ともに成長しよう」「挑戦を楽しもう」といった同社の行動規範の5原則の中で、自分が特に重視する原則を選び、その実現のために自分が何をするかを書き出してチーム内で発表する。「いつも笑顔で」「仲間と協力し合う」という抽象的な目標もあれば、「働く時間帯が異なるスタッフともコミュニケーションが取れるよう、店内交換ノートを書き始める」「コンビニのレベルを超えるPOP(店頭販促)を毎週書き換える」といった、具体的な策を発表する参加者もいた。

   研修終了時には、「ベテランの店長も、アルバイトの自分と同じ悩みを抱えていることを知って安心した」「お客様に聞かれたことには絶対に分からないと言わない、という話を聞いて自分も見習おうと思った」など、仲間への共感や自分への励みを多くの参加者が口にした。「同じファミリーマートの店舗運営に携わっていても、店舗のオーナーや従業員同士が話し合う機会はこれまであまりなかった。こうした場を持つことで、ブランドステートメントを核にした組織全体の一体感を醸成すると同時に、働きがいやモチベーションの向上にも役立てたい」とワークショップを企画したファミリーマートの岩崎浩マーケティング室長は話す。

 同社はパスタやファーストフード、スイーツなどのヒット商品を連発し、近年業績が好調だ。その背景には、らしさ活動への取り組みを通じて「コンビニを超えた」商品開発や顧客サービスを実現させてきたことが挙げられる。業界最大手のセブン-イレブン・ジャパンがフランチャイズ店の見切り値引き販売の問題をめぐって公正取引委員会から排除命令を下された事件を発端として、コンビニ本部と加盟店の関係は今後変化していくと予想する業界関係者も少なくない。それだけに、本部と加盟店、加盟店同士の結びつきを強める今回のワークショップは、ますます重要性を増している。