店内で釣りを楽しめるエンターテインメント居酒屋「釣船茶屋ざうお」などを展開するハーバーハウス(福岡市博多区)は、ミステリーショッピンングリサーチを利用して、来店客の「感動度」を数値化し、店舗でのサービス向上に生かしている。

写真1●店舗内のいけすに様々な魚を放ち、顧客は船から釣りを楽しむ(写真は新宿店)
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店舗内のいけすに様々な魚を放ち、顧客は船から釣りを楽しむ(写真は新宿店)
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 「魚が釣れた時、従業員が一緒に喜ぶ」「魚の名前を正確に説明する」など顧客の印象に強く残るサービスの実行度をKPI(重要業績評価指標)として設定し、定量的に把握する。現場ではこのデータを基に、サービス拡充策を考案する改善活動に取り組み、全店舗で共有する。こうした取り組みの成果が上がり、2008年度9月期は経常利益が約9000万円と最高益を記録。不況で外食需要が冷え込んでいる2009年9月期も、リピーターの確保に役立てる。

 店内に大きないけすを作り、そこに浮かべた船から来店客が釣り糸をたらし、釣り上げた魚をその場で調理してもらう。エンターテインメント性に富むユニークな店舗を展開する同社は、子供がいる家族を重要顧客層と位置付け、誕生日や記念日などの需要の取り込みを図っている。

 2007年からミステリーショッピングリサーチを活用し、覆面調査員が直営11店舗とフランチャイズ(FC)6店舗に月2回訪問し、顧客として同社のサービスへの満足度を評価している。小売りや外食業界ではミステリーショッピングの導入事例が増えているが、同社がユニークなのは、顧客に「感動」を与える行動を定義し、その実践度をKPIとしている点だ。評価項目は70に及ぶが、「従業員がオーダーに来る早さ」や「料理が来るまでの時間」といった一般的な項目だけでなく、「顧客が魚が釣れた時、従業員が一緒に喜んでいるか」「魚の名前を正確に説明しているか」「子供への気配りはできているか」といった同社独自の項目を加えた。これらを含めた10項目を、顧客の感動を呼び起こす行動と定義し、各店での実施状況をモニターする。

写真2●「100人のアルバイトがいる店もある。全員でどうしたら感動を生み出せるかを考える」と話す高橋拓也副社長
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「100人のアルバイトがいる店もある。全員でどうしたら感動を生み出せるかを考える」と話す高橋拓也副社長
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 もともとユニホームなどアパレルの企画製造を手がけていた同社が、「釣船茶屋ざうお」の展開を始めたのは1999年のこと。「外食産業への参入に当たり、『顧客に驚きや感動を与える』ことで他の居酒屋との差異化を図った」と高橋拓也副社長は話す。ミステリーショッピングを導入した当初は、家族連れの顧客が、子供にどのような対応を望んでいるかの調査を目的としていたが、「『顧客の感動』という中核コンセプトの実現度を測ることにも使えないかと考えるようになった」(高橋副社長)。そこでミステリーショッピングリサーチを委託したMS&Consulting(東京都中央区)と相談し、10項目の「感動指標」をKPIと位置付けた。

アルバイト社員が主体的に改善に取り組む

 ミステリーショッパーの評価は、社員の賞与などにも反映するが、高橋副社長は「目的は社員の評価や店舗の順位づけではなく、社員の教育と業務改善の促進にある」と話す。各店舗では、ミステリーショッパーの評価フィードバックを受けて、アルバイトを束ねる2~3人のクルーリーダーが改善策を検討する。月に1度、全店舗のクルーリーダーが集まって各店での取り組みを発表する。効果的な改善手法を店舗間で共有し、全体を底上げする効果も狙う。

 改善の結果は、次のミステリーショッパーの評価結果に表れるので、リーダーたちも取り組みがいがある。「以前は、作業マニュアルを作成してトップダウンで現場に定着させようとしたがなかなかうまくいかなかった。ミステリーショッパーによって成果を見える化する仕組みができ、現場が主体的に改善に取り組むようになった」(高橋副社長)

写真3●「宴会カルテ」の例。食事の残し具合などを詳細に観察し、顧客の感動度を探る
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「宴会カルテ」の例。食事の残し具合などを詳細に観察し、顧客の感動度を探る
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 こうした取り組みが定着し、様々な改善案が広がっている。多人数が集まる宴会のリピート率を増やすための「宴会カルテ」がその1例だ。宴会の担当者が事前の打ち合わせや料理を出すタイミングなどの適切さを自己評価し、さらに料理の残し具合などから食事への顧客の満足度を推測する。

 こうした情報を1枚のカルテにまとめて、顧客へのDMやメールの改善に反映させ、ファンを増やしていく。「宴会にミステリーショッパーが混じっていることはあり得ないので、宴会のサービスを向上してもミステリーショッパーの評価には関係ない。リーダー同士の話し合いが定着するなかで、ミステリーショッパー対策にとどまらない改善案がどんどん出てくるようになった」と高橋副社長は喜ぶ。不況で外食需要が落ち込む2009年9月期も、宴会リピート率の向上などで業績アップを目指す。