銀座三越(東京都中央区)にある資生堂の化粧品カウンターに導入された新型カウンセリング機器。豊富な情報を表示でき、ディスプレーを反転できるので、切れ目のない接客ができる
銀座三越(東京都中央区)にある資生堂の化粧品カウンターに導入された新型カウンセリング機器。豊富な情報を表示でき、ディスプレーを反転できるので、切れ目のない接客ができる
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 資生堂は2009年4月から、全国の化粧品カウンターで提供するカウンセリング業務をIT(情報技術)で順次改革し始めた。肌測定、売上・在庫管理、顧客情報管理の3業務すべてを1台の新型機器に統合。カウンターに専用機器やパソコン、顧客台帳、商品カタログを置く必要がなくなったので、接客に使えるカウンターのスペースが広がった。資料を瞬時に表示することなどにより途切れなく接客できる環境が整った。新型機器の導入は同年6月中に終える。同社の化粧品カウンターは百貨店など全国約300店にある。

 新型機器は「カウンターサポートシステム(CSS)」と呼ばれる。広辞苑サイズのコンパクトなこの機器は、お客の肌の状態を測定するペン型スキャナーを装備し、可動式の液晶ディスプレーに診断結果を表示できる(写真参照)。ディスプレーは根元から90度以上回転できる構造になっていて、カウンセリングの進行に応じて美容部員(ビューティーコンサルタント)が自分側に向けたりお客側に向けたりでき、そのつど、表示内容が自動的に反転する。

 CSS機器のディスプレーは、紙の商品カタログに記載していた大量の写真情報と文字情報も高解像度で表示できる。カウンセリングの途中に商品カタログを取りに行って、接客を途切れさせることがなくなった。カウンセリングを切れ目なく行えるわけだ。

 「先行導入したお店では、『私のためにずっと向き合ってくれる』『同じ情報なのにカタログよりも機器の画面で見ると説得力が増す』というお客様の声が目立った」(デパート部の東矢琢磨課長)とお客からも好評だ。画面を見ながら一緒にカルテを作っていくことで安心感が増す効果もあるという。

事務作業など軽減し先行導入店は残業時間が半減

 CSSは接客力の向上だけでなく、美容部員を“余分な仕事”から解放する。美容部員の業務内容を事前に調査したところ、1日平均約8時間の業務時間のうち接客に使っていたのは半分程度しかなかった。残りの時間は、製品発注作業やサンプル整理や顧客情報管理などに費やしていた。

新型機器の開発に携わった資生堂社員。写真右下のデパート部の加藤和子氏が手にするカウンセリング資料に記載された情報も新型端末で見られるようにした
新型機器の開発に携わった資生堂社員。写真右下のデパート部の加藤和子氏が手にするカウンセリング資料に記載された情報も新型端末で見られるようにした
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 「紙の顧客台帳を使っていたため、情報を記入する作業に美容部員1人当たり1日平均45分もかかっていた。この顧客情報管理業務の時間を削り、接客に使う時間を増やしたかった。接客を今まで以上に丁寧に行えるし、特に混雑しやすい都心の大型百貨店のカウンターで機会損失の解消にも役立つからだ」と東矢課長は語る。

 顧客台帳には、お客の名前はもちろん、1年分の応対履歴や会話の内容まで記録してある。「1つの店だけで顧客台帳を6万人分持つところもある。少ない店でも数千人分あり、紛失したら大変だ。紙では管理しづらかった」と国内化粧品事業事業企画部事業管理室の嶋津正之次長は話す。CSSの導入理由には、個人情報漏えい対策を強化する狙いもあるのだ。

 CSS開発プロジェクトは2年前の2007年にスタートした。1年前の2008年に新型機器の試作機を2店のカウンターに導入。美容部員の意見を吸い上げ、改良を重ねてから、本番機を作った。「使う人の声を反映して開発したので納得感があるはず」と嶋津次長は笑みを浮かべる。例えば美容部員の要望を受けて、新型端末に購買レシートをプリントする機能も加えた。

 2店の先行導入店ではカウンセリング業務中の美容部員を詳細に観察して業務フローを洗い出し、イレギュラーな作業もできるだけ直感的に操作できるように画面メニューを考案した。この先行2店では残業時間が半減し、美容部員1人当たり月平均で4時間半も減る効果が出ている。