キリンビールが2009年4月に発売したビールテイスト飲料「キリン フリー」が好調だ。発売後1カ月で年間目標の過半数に当たる34万ケースを売り上げ、5月14日には早くも年間目標を当初の2.5倍(160万ケース=大瓶換算で約2万キロリットル相当)に引き上げた。2008年のビールテイスト飲料の市場規模は約3万2000キロリットル(同社推計値)でそのうち同社分が約5700キロリットルだったと聞けば、今回の目標設定がいかに強気か分かるだろう。発売前に十数回の調査を実施し、その結果をパッケージデザインや飲用シーンの提案などに生かしたことが、このヒットを生んだ。

入念な調査に基づき「0.00%」訴求を決定

 キリン フリーはビール風味の炭酸飲料。従来のビールテイスト飲料が0.01~0.5%程度のアルコールを含むのに対し、発酵させないという製造方法によってアルコール度数0.00%を実現したことが最大の特徴である。

 開発には2007年に着手した。同年6月の道路交通法の改正により、飲酒運転の罰則が強化された。このため、顧客からは「運転前に安心して飲める商品を開発してほしい」といった要望が多数寄せられていた。同年秋にキリンが実施した調査でも、運転手の9割が「ビールを飲みたいと思いつつ我慢している」という結果が出た。また、微量のアルコールを含む従来のビールテイスト飲料では顧客の不安を取り除けないことも分かった。

写真●キリンビール マーケティング部商品開発研究所新商品開発グループの梶原奈美子
キリンビール マーケティング部商品開発研究所新商品開発グループの梶原奈美子氏
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 こうした調査結果を受け、同社マーケティング部商品開発研究所 新商品開発グループの梶原奈美子氏は「発酵させないアルコール度数0.00%のビールテイスト飲料を作れば新しい市場を開ける」と手応えを感じた。発酵させずにビールの飲み応えを作り出し、実際に量産できるのかという点にはハードルの高さを感じつつも、開発がスタートした。

 発酵させない製法でビールに近い飲み応えを実現するために、ビール部門と香味調合技術に長けたチューハイ部門との混成チームで開発に当たった。一方、0.00%の特徴を分かりやすく伝えるために、梶原氏は念入りに調査を実施。その結果をコンセプト固めやキャンペーンに生かした。

 実施した調査は主に3つある。1,試作品の味を顧客に評価してもらう香味調査、2,商品名やコンセプトを固めるインタビュー、3,パッケージ・デザインなどについてを尋ねるインターネット調査である。1,と2,は定性調査、3,は定量調査である。

 1,の香味調査は10回実施した。同社のビール系商品の開発では前例のない多さである。梶原氏は「『この程度の味ならソフトドリンクを飲めばいいや』と思われたら負けだと考えて、味作りに力を入れた」と明かす。

 2,の商品名やコンセプト固めの調査は3回実施した。商品名の候補を十数個提示して反応を確かめたり、アルコールを含まないビールテイスト飲料を飲みたいシーンを尋ねたりした。例えば、自動車を運転する前や冠婚葬祭などむやみに酔いたくない場面で飲みたいといった利用シーンを引き出した。これらの声を参考に、発売前の4月7日、東京湾アクアラインの海ほたるパーキングエリアで元F1ドライバーの中島悟氏らと共同でキャンペーンを開催。商品の特徴を的確に伝えるイベントは、「テレビコマーシャルに匹敵するほどの反響があった」(梶原氏)

 3,のインターネットを活用したアンケートは、商品イメージがある程度固まった2008年夏以降に2回実施した。調査の結果は主にパッケージ・デザインに生かした。例えば小瓶タイプの商品には、ビール系商品らしく麒麟のイラストを表示するとともに、アルコールが全く入っていないことを強調する「0.00%」のシールを張ることにした。

 実は社内の検討段階では、「0.00%と強調するのではなく、単に『ゼロ』と表示すればよいのではないか」という声も挙がっていた。だが、最近の飲料商品には、カロリーなどが「ゼロ」であるとうたいながら、実際には微量を含んでいるものが多い。このような状況を顧客が強く意識していることもアンケートを通じて確認した。このため、ゼロでは商品の特徴が十分に伝わらないと判断し、0.00%と表示することを決めた。

今後はブロガーの声をヒントに売り場提案へ

 好調なスタートに甘んじず、今後の販売促進にも着々と手を打っている。一例は、発売直後から4月末まで実施したブログを活用したモニター調査である。

 具体的には、イーライフ(東京都渋谷区)が運営する「バズライフ」に登録するブロガー(ブログの書き手)にモニターとなってもらい、「アルコール0.00%だからこそ飲めた場面」というテーマで記事を執筆してもらった。例えば、ビールが好きな運転手が野外バーベキューの際に飲めたといった利用シーンが集まったという。まだこの調査結果は分析中だが、バーベキュー関連商品の売り場の近くにキリン フリーを置いてもらうよう小売り店に提案するといった施策を検討しているもようだ。

 想定した場面以外での飲み方もあった。例えば飲み会で、下戸の人も皆と同じようにビール風のグラスを持って乾杯できることを評価する声だ。また、繰り返して飲む顧客ほど、従来のビールテイスト飲料になかった爽快感を高く評価することも分かった。これらの声を生かし、息の長いブランドに育てたいとしている。

■変更履歴
本文中9段落目、「例えば大瓶タイプの商品には、ビール系商品らしく」のところ、「大瓶」とありましたが正しくは「小瓶」でした。お詫びして訂正します。 [2009/6/11 11:30]