ポンプ大手の酉島製作所は2009年3月期決算で4期連続増益を達成した。4年前の2005年3月期は赤字決算だった。

 急激な業績向上は、海外からの受注獲得強化による売り上げ増と、生産性向上の取り組みとの両輪で実現した。2002年から2009年にかけて売り上げは約1.5倍となり、海外比率は2割から6割に高まった。さらに2005年から研究開発部門などで生産性を2倍に引き上げる活動に取り組み、新規技術開発を伴う案件が売り上げに占める割合は2002年の2割前後から2009年には5~6割へと向上した。

受注強化が当初は裏目。2倍の生産性向上目指す

 創業90周年を迎える同社は、上下水道や発電設備など国内の公共事業向けにポンプを提供して成長してきたが、2000年前後から公共事業の減少によって成長が頭打ちになっていた。

 そこで2002年から中東や欧州、豪州への進出を進め、研究開発、製造、営業部門の人員がクロスファンクショナルチームを組んで、米GEなど海外の大手発電所メーカーやプラント事業者などの顧客の開拓を図った。海外事業所のトップには現地の人材を抜てきし、海外のポンプメーカーから技術者をスカウトするなどの施策が功を奏し、多くの受注を勝ち取った。

 しかし国内の開発・製造部門は急増した受注をこなしきれず、採算が悪化して2005年3月期決算は赤字に転落してしまった。この苦境を乗り切るため、2005年2月から「TW(酉島ウエイ)プロジェクト」と呼ぶ生産性向上活動に取り組んだ。ポンプ技術部やプラント技術部など、研究開発に当たる部門の設計、開発業務の生産性を2倍に引き上げ、新技術開発を伴う顧客のニーズに的確に対応していくことが目的だ。

 コンサルティング会社のプラウドフット ジャパン(東京都千代田区)の支援を受けて取り組んだTWプロジェクトでは、設計にかかる時間を図面単位で割り出して、その生産性を2倍に引き上げる目標を設定し、改善施策を各部門で設定した。

作業時間の7割に生産性向上の余地

写真●原田耕太郎 代表取締役社長<br>(写真撮影:吉田竜司)
写真●原田耕太郎 代表取締役社長
(写真撮影:吉田竜司)
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 「付加価値を生んでいるのは作業時間の3割。それ以外の時間はデータを探したり、重複した仕事をしたり、電話対応に追われていたりして、本来の設計業務に集中できていないことが大きな問題だった」。当時営業本部長としてプロジェクトオーナーを務めた原田耕太郎代表取締役社長はこう話す。技術者が本来の設計業務に集中できるよう、部門のマネジャーが現場の技術者と面談する時間を毎日設け、資料の置き方や、新規案件の説明を改善した。さらに作業に行き詰まったときの相談役を配置した。

 改善施策を実行しながら週ごとに生産性を計測し、推進委員会と実行委員会の2つの会議体で検討した。推進委員会は隔週で開催し原田社長が委員長を務め、部門担当の執行委員が参加した。現場目標に対する進ちょくを確認し、阻害要因を見極めて具体的に問題を解決していった。推進委員会を開催しない週は、部門マネジャーが参加する実行委員会を開催し、マネジメント上の問題を解決していった。現場の努力だけで解決できない課題は推進委員会に提起し、経営トップの手に委ねた。

 「プロジェクトの開始当初は、『生産性の2倍アップなど不可能』『設計のようなクリエーティブな仕事の生産性は定量的に測れない』と反発する技術者もいたが、できない理由を探すのではなく、どうしたら達成できるかを全員で考えるように変わっていった」と当時プロジェクトの事務局を務めた和田章弘第二ポンプ事業部長は振り返る。設計部門のプロジェクトを半年で完了した後は、調達本部やエンジニアリング部、営業部、経理部などにもプロジェクトを展開した。

 こうして同社の業務のスピードや採算性は高まり、新規技術開発を伴う案件が売り上げに占める割合が5~6割に高まる成果を生んだ。ポンプの販売だけでなく、プラントのシステム受注やメンテナンスサービス事業の拡大にも結びついている。TWプロジェクトは今も部門を変更しながら続いており、2008年からは生産技術部門の生産性向上プロジェクトにも着手している。2010年末の稼働を目指して中国で建築中の高効率ポンプ工場でも、この手法を活用していく。