写真●ECナビの矢澤修 ショッピングコンシェルジュ事業室室長(左)と中山理香 人事本部本部長(右)
写真●ECナビの矢澤修 ショッピングコンシェルジュ事業室室長(左)と中山理香 人事本部本部長(右)
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 価格比較サイト「ECナビ」を運営するサイバーエージェント傘下のECナビ(東京都渋谷区)は、2009年2月からファッション誌などの雑誌に掲載された商品を注文主に代わって買いに行く買い物代行サービス「ECナビコンシェルジュ」をスタートさせた。

 同事業を担当する矢澤修ショッピングコンシェルジュ事業室室長は2009年5月現在、「まだ競合が少ないこともあり、ファッションに関心の高い地方の20代後半の女性からの注文が好調」と語る。
 
 この新事業は極めてユニークな経緯で生まれた。最初に事業案を出したのは、実は同社社員ではない。2008年12月にインターンシップの研修中に新事業のアイデアを競った学生によるものだ。経営陣にプレゼンテーションした当日中に事業化が決まり、2カ月後に発足した。

互選で参加者を絞り込み、社長らがレクチャー

 ECナビは、年商37億円、従業員数220人(2009年4月現在)のベンチャー企業。今回の新事業を生むきっかけとなったインターンシップ制度「フロンティア」は2008年から開始したばかりで、文系学生を対象にしており、同年中は3回実施した。ECナビコンシェルジュの事業案はこの3回目で優勝したものである。

 同制度の特徴は、応募者を学生自身の評価で絞り込むこと。まず応募者全員を集めて、ECナビ社内の複数の特設会場にいる社員たちに対して「仕事をするうえでどんな価値観が大切か」についてインタビューさせる。学生たちは互いのインタビュー活動の様子を見て、自分以外の3人を推薦する。推薦文には「○○さんの前向きな姿勢に感動しました」などと書いてもらう。心に響くメッセージが多く、学生から好評だという。この選考の仕組みは2回目のフロンティアから取り入れた。

 3回目になる2008年12月の同研修では、こうして選抜された約20人の学生が4チームに分かれ、新事業のアイデアを1週間で練り上げた。研修期間は連続7日間で、1~2日目は宇佐美進典代表取締役が事業企画の着眼点や情報収集の仕方などを、永岡英則取締役CFO(最高財務責任者)が財務を学生に教えた。また、野外でチームビルディングも実施。各チームにつく支援役の同行社員とも親睦を深めた。3~6日目は各事業の代表者による事業概要の説明を受けたり、調査したりして、事業案を考えてもらった。6日目は夜中まで作業する学生も多かったという。

 こうして迎えた7日目の最終日、経営陣に対するプレゼンテーションを経て買い物代行サービスの事業案が優勝した。優勝したチームに張り付いていたのが、後に今回の新事業を担当することになる矢澤氏だった。矢澤氏は学生とともに直後の懇親会に参加していた時に、経営陣が正式に事業化を決めたことを知らされた。「商品の在庫リスクがなく、価格比較サイトとのシナジーも見込みやすい」点を経営陣は高く評価したのだ。

 フロンティアで生まれたアイデアが事業化を認められたのは、その3回目が初めてだった。もともと新事業を立ち上げる経験を求めて約3カ月前に転職してきた矢澤氏は、審査員だった役員に「ぜひ自分を責任者にしてほしい」と訴えた。この思いが通じて、数日後、責任者になって立ち上げるよう指示が下った。優勝チームにいた3人の学生も現在、矢澤氏の事業を手伝っている。

 人事本部の中山理香本部長はこのインターンシップ制度について、「既存事業とシナジーのある新事業案を考えるコンテストを通じて、当社を深く知ってもらうのが本来の狙い」と語る。工夫を凝らした研修内容が奏功して、学生は意欲的に新事業の企画に取り組み、その質の高さは経営陣をもうならせた。また、ユニークで実践的なカリキュラムが話題となり、フロンティアに応募する学生が増えてきたという。