予測精度は80%以上と高い。その理由は自販機の設置環境にある。もともとアサヒ飲料の自販機は屋外よりもオフィスビルの設置が多く、全体の60%以上がビル内にある。売れ行きが天候や気温に左右されて予測しにくい屋外に比べ、設置環境が安定している屋内の自販機は過去の実績から販売予測を立てやすい。そうした自社の設置特性を生かし、アサヒ飲料は販売予測に乗り出した。

 満タン補充の時代に販売予測に取り組まなかったのは、正確に販売本数を当てられない限りは実用にならないという前提があったからだ。補充保留に切り替えたことで「多少の予測のズレは許容できる」(菊地部長)ようになり、販売予測を実用化した。予測誤差を気にするよりも、補充担当者の作業の無駄を大幅に省いたほうが利益貢献しやすいと割り切った。

 リアクトを使った1往復オペレーションの詳細はこうだ。営業車でオフィスビルに到着すると、補充担当者は新しく導入した営業端末(キヤノンの「PRea GT-1」)を取り出し、オフィスビルに複数台ある自販機の「事前商品予測データ」をまとめて確認する。営業端末が表示した予測本数に従って営業車から在庫を集め、台車に積んで各階の自販機に向かう。自販機の前まで来たら、営業端末の赤外線通信機能で自販機から売り上げデータや売り切れデータ、釣り銭切れデータを収集。売上高を確定する。その金額が自販機の設置主に支払うロケーションマージン(販売手数料)の算出の元になる。最後に現金を回収し、在庫と釣り銭を補充して作業を終える。満タン補充ではないので自販機には空きが残るが、気にしない。

●補充保留ルールに基づく自販機の在庫補充システム「リアクト」を使った補充作業の様子
●補充保留ルールに基づく自販機の在庫補充システム「リアクト」を使った補充作業の様子
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 支店に帰社後、補充担当者は営業端末をネットワークにつなぎ、自販機の各データを吸い上げる。すると翌朝までには支店全体の販売実績や売り切れ時間の長さなどが自動集計される。支店長は単品ごとの売り上げや売り切れ時間の長さに応じて品ぞろえの変更をアドバイス。上司からの指示と販売予測から割り出した本数の在庫を前日の夜に営業車に積み込んで、翌日回訪に出発する。

 アサヒ飲料が6万台の自販機で1往復オペレーションを実現したのと同様に、業界最大手の日本コカ・コーラ(東京・渋谷)も2008年2月から1往復オペレーションを開始している。2008年10月時点で、都心にある約5000台の自販機を対象にしている。

投資対効果を考えて遠隔通信は見送り

 ただし、同じ1往復オペレーションでも、アサヒ飲料と日本コカ・コーラの取り組みでは、仕組みやITの活用法が異なる。アサヒ飲料が事前に販売本数を予測するのにITを活用しているのに対して、日本コカ・コーラは予測をせず、代わりにNTTドコモのFOMA通信機能を自販機に搭載して、無線で自販機から販売本数の実績データを収集する。その本数分を自販機まで運んで補充している。

 実はアサヒ飲料もリアクトの開発当初は遠隔通信機能を組み込んだ仕組みを検討したという。だが自販機に無線通信機能の追加が必要になることや、日々の通信費がかさむことから「開発と運用のコストが高いので断念し、別な方法を考え始めた」(アサヒ飲料の知久龍人システム企画部部長)。こうしてリアクトの販売予測機能の活用に行き着いた。街中のすべての自販機に遠隔通信機能が安価に搭載されるのはしばらく先なので、補充保留と販売予測の組み合わせは現実解として注目されそうだ。